雪解け間近

※現代設定


 悪い人ではないんだ――あの人をそんな言葉でフォローする月島さんが、信じられないと思った。月島さんは誰よりもあの人の面倒を見ているし、その分負担だって増えている。なのにどうしてあっち側に立つのだと、ほんのりとした苛立ちを感じながらグラスを傾け酒を胃に溜める。

「でもやっぱ納得いかないです」

 溜めた分、不満が溢れる。ビールを流し込む代わりに「だって、いきなり月島さんより上の役職だなんて。鯉登……課長補佐って、歳は私よりちょっと上ってくらいですよね?」と愚痴を溢す私を、月島さんはなんとも言えない顔つきで見つめている。
 執行役員の息子かなんか知らないけど、いきなりやって来たかと思ったら課長補佐って。鶴見課長の補佐なら私がなりたいくらい……いや、他の全員もそう思っているかもしれない。というかそもそも。

「私は、月島さんのことは尊敬してます。でも急にあの人の下で働けって言われても、なんか素直に従えないっていうか。仕事だって分かってるんですけど……でも……。上の決定って、いっつも勝手ですよね」

 現場のこと分かってないくせに――そこまで言ってからグラスの中身を空にすれば、月島さんは「まぁまぁ」と言いながら再びグラスにビールを満たしてくれた。彼のこういう面倒見の良さが大好きだし、尊敬する所だ。だから余計にその上に突如として現れた鯉登音之進という男に拒絶反応が出てしまう。

「ていうか。鯉登課長補佐……長いな。コイホで良いですかね?」
「ダメだ」
「……鯉登課長補佐、も私たちと全然馴染もうとしないじゃないですか。なんか見下されてる気分になるんですよね」
「まぁ……鯉登課長補佐も大変なんだ。分かってやってくれ」
「分かってやってくれって言われても……分かりようがないっていうか……」

 月島さんにぶつけた所でどうにもならないことは分かっている。そもそも私が不満を抱えているからといって、会社が私の為だけに変わるわけもない。そんなレベルの話じゃないって分かってはいる。だけど抱える気持ちはどうしようもない。そのやり場のない気持ちを、私は結局面倒見の良い月島さんにぶつけているだけだ。

「まぁまぁ。今日は好きなだけ飲め。奢ってやるから」
「月島さぁん……」

 月島さんの言葉を噛み締めていると、月島さんは二言目には「だからみょうじも鯉登課長補佐と仲良くしてやってくれ」なんて言って鯉登課長補佐をフォローするような言葉を放つ。……なんで月島さんはあっちの肩持つかなぁ。

「私の味方になってください月島さぁん」
「ワガママ言うな」
「だって〜〜」
「飲みにならいつでも連れて行ってやるから」
「パパぁ〜〜」

 パパはやめてくれ頼むと思いっきり眉根を寄せて困った表情を浮かべる月島さんを笑い、私は再びグラスを傾ける。……月島さんにこうやって部下に対してのフォローをしてもらってること、鯉登課長補佐はちゃんと知ってるんだろうか。



「あ、……あ」

 出先から戻り乗り込むエレベーター。閉まるのを待っていると、ドアの隙間からこちらに向かって来る人影が見えた。慌てて開ボタンを押してあげるととその人も「すみません」と言いながらエレベーターに乗り込む。そこで私の口から2つ目の“あ”が溢れた。気まずい相手が乗ってきてしまった。

「な、何階ですか?」
「……7階」
「あ、そ、そっか……」

 同じ課に属しているのだ。私たちの目的地は普通に考えたら同じだろう。……き、気まずい。7階って意外と道のり長い。誰か乗ってきてくれ。
 そんな願いを聞き入れてくれたのか、エレベーターが3階に辿り着いた時、合図と共に扉を開けた。……救世主の登場だ。ありがとう、誰か分からないけど乗ってくる人!

「って、尾形先輩かぁ」
「なんだ」
「お疲れ様です」

 あからさまに落胆した私を見つめながらエレベーターに乗り込む尾形先輩。……視線が痛いですすみません。ガッカリしたのは別に変な意味はなく……いやでもまぁ“尾形先輩かよ!”と思ってしまったのは事実で……うぅ、顔の左半分が痛い。というか鯉登課長補佐はさっきからずっと黙ったままだし。地獄かここは。上に昇っているのに下に堕ちている気分だ。

「いやぁ。にしても、寒くなりもしたなぁ」
「もした?」
「コタツから出るのに一苦労しもすなぁ」

 ……まさか。尾形先輩、この期に及んでもっと地獄に向かおうとしてらっしゃる? やめて道連れにしないで。「12月にもなると体に堪えもす」あー! だからやめてってば!!

「鯉登、課長補佐、もそう思いもすか?」
「やっ」

 やめろ尾形!! と言いそうになり、慌てて口を噤む。そうしてどうにか「やっぱ12月も中旬になりましたしね! ね〜!」と無駄に明るい口調で会話に割り込む。ちょっと。どっちかで良いから反応してください。……助けて月島さぁん。
 心のギブアップを感じていると、そこで試合終了を知らせるように7階到着の合図が鳴りエレベーターが止まる。……終わった。ようやく終わった。ここは天国。

「……体は資本だ。大事にしろ」

 鯉登課長補佐はそう言って1番に出て行った。その背中に「チッ。つまんねぇ」と舌打ちを鳴らす尾形先輩の顔つきはあからさまで、慌てて腕を叩いて嗜める。私も鯉登課長補佐のことあまり好きじゃないけど、尾形先輩や宇佐美先輩の態度は露骨過ぎてヒヤヒヤする。まったく、大変な先輩を持ってしまったものだ。



「え? 来れない?」

 携帯を耳に押し当て誰かと会話をしていた月島さんが、急にバタバタと慌ただしくし始めた。一体どうしたのだろうかと不思議に思っていると、月島さんは電話を切るなり深い溜息を吐いた。この深さは中々に深刻そうだ。……確か今日って取引先の人がウチに来るんだったような。相手は……あ、相手は……。

「門倉ッキーですか?」
「……あぁ」

 カドクラッキーとは。取引先である土方酒造に勤める門倉さんが起こす凶運のことである。あまりにも色々なことが起こるので私は門倉さんのことをそう呼んでいる。普段は私が付けるあだ名を注意してくる月島さんが何も言わない。結構マズいんじゃないかコレ。

「鶴見課長のとこ行ってくる」
「分かりました」

 それから数分後。戻って来た月島さんは書類を鞄に入れて出掛ける準備を始めだした。門倉さんが来るんじゃなかったのかという質問には「色々あって来れないらしい」と返された。色々とは、多分運転しようとした社用車が何故か動かないとか、代わりにバスに乗ろうとしたら何故か来るバス全て満車だったとか、電車で行こうとしたらダイヤが乱れてるとか、というかそもそも道が緊急工事で通れなくなったとか。そういうことが含まれている。これは過去に実際に起こった門倉ッキーだ。

「多分泊まりになると思う。ついでにそのまま月曜日も土方酒造さんに顔出すから、月曜日の出社は少し遅れる」
「分かりました。私に何か出来ることありますか?」
「いや、大丈夫。金曜日だし、みょうじも早く帰れよ」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい」

 駆け足で出て行った月島さんを見送り、チラリと時計に視線を這わす。その視線を月島さんの机の上へと移し、出来かけの書類を見つめる。……この書類、本当は今日完成させるつもりだったんだろうな。下準備までなら前にやり方を教えてもらっているヤツだし、月島さんにはいつもお世話になっている。こういう時に微力ながらの恩返しはしておきたい。

―机にある書類なんですけど、ご迷惑じゃなかったら下準備だけしておいても良いですか?
―すまん。正直助かる。だが出来る範囲で構わない
―了解です!

 スタンプを押しスマホの画面を落とす。月島さんの許可は得た。今日は金曜日だけど、金曜日だから。残業上等。明日はゆっくり寝まくろう。あぁでも誰か手伝ってくれる人とか……あ、尾形先輩。

「谷垣狩りだぜ」

 尾形先輩、定時になったらほぼ毎回谷垣さんの所に行くよなぁ。わざわざ別の階に行ってまで。懐いているのだろうか。宇佐美先輩も何故か門倉ッキーに懐いてて、今日も月島さんと同行している。……仕方ない。これは私が勝手に引き受けた仕事だ。1人でどうにかするか。

「……」

 カタカタ、カリカリ、カチカチ。
 1人で居るならこの音は丁度良い作業音として耳に馴染む。けれど今この場所は私以外にもう1人居て、その人も先程からじっと自分の机で何かと向き合っている。……き、気まずい。鯉登課長補佐っていっつもこんな時間まで残っているのか。何をしてるんだろう一体。息抜き程度の雑談も出来ないし、息苦しささえ感じる。……早く帰りたい。

「みょうじ」
「はひっ」
「進捗はどうだ」
「はひぃ?」

 いつの間に後ろに立っていたのか。驚きのあまりまともな言葉を出せない私に構わず、鯉登課長補佐は書類に視線を落としている。進捗状況でいうと6割くらいだろうか。あと1時間ちょっとあれば終わるくらいだけど……。

「あと30分くらいしたら終わります」
「そうか。ならば半分貸せ」
「えっ?」
「私の仕事は終わった。だからみょうじの抱えている仕事を分けろ」
「え、いやでも……そんな、」
「2人でやったら15分だ。浮いた15分で早く帰れる」

 それは……そうですね。“1+1は2”を自信満々に言われてるような気分になりつつも「でもほんと、あとちょっとですし……鯉登課長補佐は先に帰られてください」と言葉を重ねる。15分じゃ正直終わらないので。鯉登課長補佐の手を貸してもらうのも申し訳ないっていうか、早く1人になりたいっていうか……。

「貰うぞ」
「あ、す、すみません……」

 どういう言い回しをしようか考えるうちに鯉登課長補佐は資料を半分持って行ってしまった。まずい、あの量、絶対15分じゃ終わんない。聞いてる話と違うって思ってないかな。どうしよう、申し訳ない。……早く終わらせて鯉登課長補佐の負担を軽くしないと。
 気まずさなんて吹き飛ばして集中すること十数分。終わりが見えたという所で鯉登課長補佐が席を立った。休憩だろうかとチラリと横目で見ていると鯉登課長補佐はこっちにやって来て「終わったぞ」と書類を渡してきた。

「エッ! もうですか!?」
「やり方は以前月島に聞いたので間違いないとは思うが。月島に週明け確認するよう言っておいてくれ」
「わ、分かりました……ありがとうございます」
「みょうじもその調子ならもう終わるな」
「あ、はい。マジで終わります」

 今度は嘘なんかじゃなく、本気で終わる。思わず本音が滲んだ言葉を返すと鯉登課長補佐は「そうか」と短く呟き自席に戻った。帰らないのだろうかと思いつつも残った仕事に取り掛かり、結局1時間ちょっとかかると思っていた仕事を30分もかからない程度で終わらせることが出来た。鯉登課長補佐がこんな風に手を貸してくれるとは思ってもなくてちょっと驚いたけど。無事に、お陰様で終わらせることが出来た。これで月島さんの負担も軽く出来ると良いなぁ。

「ん〜!」
「終わったか」
「あ、はい。お陰様で。ありがとうございました」
「では帰るか」
「え? は、はい」

 鯉登課長補佐の言葉に従うように自身の鞄を持ち出口へと向かう。そのまま2人でエレベーターホールまで歩き、エレベーターの到着を待つ。……この無言、やっぱ気まずい。

「あの、すみませんでした。結局手伝っていただいて」
「構わん。私のせいでもある」
「鯉登課長補佐の?」
「月島にはいつも助けてもらっている。その分、月島の負担が増えているのは事実だ」

 驚いた。……この人、こんなこと言うんだ。もっとなんかこう、尊大な人かと思ってた。仕事を手伝うってこともビックリだし、あんな時間まで自分の仕事をしてることにもビックリだった。ちゃんと仕事、してるんだなぁ。

「それに、そのせいでみょうじに皺寄せがいったようなものだとも思う。すまない」
「え? いや私はそんな……勝手にやってるだけで……」

 悪い人ではないんだ――この人をそんな言葉でフォローする月島さんが、信じられないと思った。だけど、今はその言葉が現実味を帯びた言葉として再生される。もしかしてこの人、ちゃんと喋ったらすごく良い人なのかもしれない。

「帰りはどうやって帰るんだ」
「電車です」

 1階に到着し、お疲れ様でしたの“お”を言おうとした私より先に鯉登課長補佐の質問が飛んできた。その言葉に返事をすると鯉登課長補佐は「ならば送ってやる」と二の矢を投じてくる。その言葉に慌てて手をブンブンと振ってみても、鯉登課長補佐はその動作を見ることなく駐車場へと足を向けて歩き出す。めっちゃ至れり尽くせり過ぎて戸惑ってしまうんですけど。関り持ったらめっちゃ関わる感じなのか、この人。

「お、お邪魔し……て良いんでしょうか」
「構わん」
「で、でもこんな良い車の助手席に私なんて相応しくないというか……」
「変な遠慮だなそれは。普通は彼女に申し訳ないとかではないのか」
「アッそ、そうですよね! 彼女さんに申し訳ないので!! やっぱり私はここで!!」
「良いから早く乗れ。付き合っている相手はおらん」
「あそうなんですか? なんだ」
「むっ?」
「いえすみません」

 押し問答をやめサッと助手席に座る。なるべく使う面積を小さくしようと鞄を抱えこんで縮こまる私に、鯉登課長補佐が「道案内を頼む」と指示を出してくる。私がこんな車から降りてくるの見たらビックリするだろうな。……ビックリする相手が居ないわ。

「寒くないか?」
「大丈夫です。めちゃくちゃ快適です」
「そうか」
「ありがとうございます」

 心は少し寒いけど、なんて思いながら窓の外に視線を散らす。冬の夜空って寒い分空気が澄んでて結構好きなんだよなぁ。夜景も綺麗に見える。普段車に乗ることあまりないから、この速度で流れていく景色は結構新鮮だ。労働した体に沁みる。
 視界を潤したら、今度はお腹が空腹を訴えてきた。静かな車内に響かないように必死にお腹に手を添わせていると、鯉登課長補佐が「ご」と短い言葉を発した。

「ご? あ、すみません。ここら辺で大丈夫です」
「ご……キエッ」
「ごきえ?」

 ハザードを焚いて道端に車を停める鯉登課長補佐。そこで言われた聞き慣れないワードに首を傾げると、鯉登課長補佐は「ごきげんよう」とやけに力のこもった声で言葉を発した。ごきげんよう、って。この場面で使う言葉か? まぁ間違ってはないんだけど。私も言った方が良いのかな?

「ありがとうございました。……ご、ごきげんよう。です」
「あぁ」

 お疲れと言って車を発進させる鯉登課長補佐は、心なしかしょぼくれて見えた。なんだったんだろう? もう1度首を傾げてから自宅へと足を向ける途中。ついさっきまでの出来事を振り返ってみたら、鯉登課長補佐のイメージがだいぶ変わっていることに気が付いた。……でもやっぱりまだ“変わった人”って感じだな。うん。てか“ごきえ”ってなんだったんだろう? 今度月島さんに訊いてみよう。



「みょうじ、先週はすまなかった」
「お疲れ様です。門倉ッキー、どうでした?」
「それがあのひと騒動のおかげで良い酒が出来そうなんだ」
「どういうことですか?」

 なんでも、あの時間分浸漬という工程を長引かせたおかげで、納得のいくお酒が出来るかもしれないらしい。そのことを嬉しそうに話す月島さんを微笑ましく思っていると、月島さんが「そういえば」と何かを思い出したかのように言葉を吐き出した。

「先週、鯉登課長補佐も仕事手伝ってくれたんだったよな」
「あ、はい。そうなんです。帰りも送ってもらって。そうだ、“ごきえ”って何か分かります?」
「ごきえ? なんだそれ」
「月島さんが聞き慣れてないってことは、方言でもないってことですよね。なんだろう?」
「さぁな」
「鯉登課長補佐って、変な人ですよね」

 ポツリと呟いた声に、月島さんの顔つきが変わる。その顔がさっきのお酒の話をする時と同じ色合いを持っている気がして、慌てて「で、でもまだ仲良くはなってないっていうか……悪い人ではないんだなってくらいで」とよく分からない補足をしてしまう。

「メシは行かなかったのか」
「ご飯ですか? 私と鯉登課長補佐が?」
「先週、連絡が来たんだ。“部下をご飯に誘ってもパワハラにならないか”って」
「パワハラ?」
「時間帯的に、相手はみょうじなのかと思ってたんだが」
「いえ……何も」

 何も言われなかったけどな……? ごきえくらい。……ご? ごって、ごはんのご? いやだとして“きえ”は? やっぱ分かんない。とにかく、“メシ行こう”とは言われなかったし、さっと送ってさっと帰って行った。……でも、月島さんに相談はしてたんだ。

「悪い人じゃ、ないですね」
「あぁ。悪い人じゃないんだ。……変な人じゃないとは言い切れんが」
「ふふっ」

 お礼を言いに行くという月島さんに「一緒に行きます」とついて行くと、鯉登課長補佐は席に座ってスケジュールを広げじっと眺めていた。この顔、車の中でも見たな。今の方が眉毛をしゅんと下げていかにも悲しんでますという感じの顔をしてるけど。

「鯉登課長補佐。先週はありがとうございました」
「月島。先週は災難だったな。書類は一応目を通しておいてくれ」
「分かりました。……大丈夫ですか? 随分浮かない顔ですが」
「父上が出張になってしまったんだ」
「……そうですか。今年はお兄さんも帰って来られないそうですね」
「あぁ。兄さあは忙しかしじゃっで、仕方がなか」

 後半なんと言っているか良く分からなかったけど。23日の枠に書かれていた“誕生日会”に二重線を引くことの意味は分かった。他の日はびっしりと書き込まれているのに、その日だけは“誕生日会”としか書かれていない。それだけ特別な日だったはずなのに。それがなくなってしまうのはなんとなく居た堪れない。

「じゃあ、その日ご飯食べに行きませんか?」
「キエッ?」
「きえ?」

 きえってもしかして……。聞いたことのある言葉に引っ張られている思考を一旦止め、ふと思う。誕生日にご飯に行きませんかというのは、さすがに出過ぎたマネをしているような気がしなくもない。差し出がましいことを言ったな。至った考えに慌てて「すみません」と言いながら顔をあげると、鯉登課長補佐の顔はパァっと明るい表情を浮かべていた。

「月島ァ!」
「俺も行きます」
「キエエイ!」
「ふふっ」

 “私たちと全然馴染もうとしない”も、“なんか見下されてる気分になる”も。私が少し前に言った言葉たちだ。だけど、今目の前に居る人からそんな感想は一切浮かんでこない。鯉登課長補佐って、月島さんの言う通り悪い人じゃないんだな。……なんか、もっとちゃんと知りたいかも。

「鯉登課長補佐は何がお好きですか?」

 誕生日会、せっかくなら喜んでもらいたい。この人の笑顔を、もっと見てみたい。そしたら、私はこの人のことを今より好きになれるかもしれない。こんなことを思っているあたり、私は既にこの人のことが好きになってしまったようだ。

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