鈴鳴りの手招き

「好きだから付き合って」

 千冬くんにこう言って告白をされた。あの時はその言葉が脅迫のように聞こえ、怯えながら「はい……」と返した。

 そして千冬くんと恋人同士になって数週間が経つ。が、未だに手を繋ぐくらいしか進展がない。相手は不良だし そういうの、もっとポンポン行くのかと思っていたけど、千冬くんは私のことを凄く大事にしてくれている。

 初めて手を繋いだ時も「手、繋いでいいか?」って真っ赤に染めた頬を掻いて視線を逸らしながら訊いてきたくらい。そんな見かけによらず純粋な千冬くんを好きになっていき、あの時の返事に肯定を返して良かったと今では思える程だ。

 そして、今日。初めて千冬くんの家にお邪魔することになった。千冬くんが最近黒猫を飼いだしたというのでその猫を見に行くことになったのだ。

「お邪魔します……」
「飲みモン持ってくる」

 そう言って通された千冬くんの部屋は男の子にしては綺麗に整理されているなぁと思う。あまりキョロキョロするのも失礼かと思ったけれど、こうでもしてないと緊張でおかしくなりそうだった。

「おまたせ」
「ありがとう。……あ、この子?」
「おう。ペケJっつーんだ」

 千冬くんが部屋に戻ってきた時、開かれたドアの隙間から一緒に姿を現した黒猫を見つめ声をかける。ペケJという独特の名前は恐らくバイクが関連しているのだろう。

 ペケJを見つめていると机にコップを置いた千冬くんが膝を少し強めに叩きながら「ん」と声を発する。

 えっ、とその行動を凝視してみるが、千冬くんの視線は携帯に落とされたまま。…これは……つまり……こっちに来い、ということでしょうか……? 千冬くんは要求をする時目を合わせないクセがあるし……。今回もそういうことで良いんだろうか?

 一通り頭でグルグル考えてみたけれど、結果は上手く纏まらず、半ば自棄になった状態で千冬くんの膝に腰を下ろす。……凄く恥ずかしいけど、千冬くんが喜んでくれるなら……。そんな思いで必死の行動だったけれど、千冬くんから聞こえてきたのは「え?」という驚きの声で。

 こちらも「へっ?」と呆けると「ペケを呼んだつもり……だったんだけど」と戸惑った口調の千冬くん。…………これはやってしまった。

「えっ、あっ、ご、ごめんっ! ほんとごめん!」

 恥ずかしさで死にそうになって、慌てて離れようとすると千冬くんの腕がお腹にまわり、ぎゅっと拘束される。その行為に再び呆けていると「……このまま、で」と今度こそ私に向けた要求。

「はい……」

 その要求を受け、私も照れているとペケJがとん、と私の膝の上に乗ってくる。そして私をじっと見つめてくるので、恐らくこれはテリトリーの主張なんだろう。

「あ、ごめんね? 私が定位置奪ってるね……」
 
 申し訳なさそうにペケJに言うと、ペケJはにゃぁと短く鳴いてそのままくつろぎだす。……あれ。これは……。

「ペケのやつ、なまえの膝の上気に入ったぽいな」
「これは暫く動けませんね……?」
「はは、だな」

 近過ぎる距離も良いのかも。……今度は私からおねだりしてみようかな? なんて思ってみたり。

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