meow

 鳥のさえずる声が朝を告げる。耳から入った朝を薄目を開くことで視界からも実感し、カーテンの向こうの白さに目を瞬かせる。朝を受けて小さく伸びをすると寄り添うように私の隣で無防備に眠っている千冬が「ううん、」と唸り声をあげた。

 上半身裸で眠る千冬は私が動いたことによって生じた隙間を寒く感じたらしく、身を捩らせてその距離を埋めようとしている。猫のような仕草がおかしくて、ふふと小さく笑ってそっと瞼に指を滑らせてみる。

 普段は大きな瞳を浮かべている両眼も、今は瞼に守られ夢の中。あぁ、睫毛が長くて羨ましい。千冬の遺伝子を継いだ子は絶対可愛いんだろうなぁ。キメの細かい肌も、羨ましくてしょうがない。

「んー……ペケ」

 羨ましいと感じる思いそのままに指を走らせ続けていると、千冬が愛猫の名を口にする。一瞬の間を空け、テレビの前に鎮座しているペケJと目を合わす。が、ペケJはすぐに視線を逸らし、腕に顔を乗せ微睡みの世界へと戻っていく。

 私もすぐに千冬へと視線を戻すが、飼い主も同じように夢の中。寝ぼけた様子が可愛くて、もっと と湧き上がる欲望に任せて千冬の許可も取らず色んな所を触ってみた。それでも千冬は身じろぎをするだけなのがおかしい。

 これは起きないなと高を括り、口の端にそっと口づけを落とす。さすがに起きるか? とヒヤりとしたものの、千冬は変わらず「ペケ……」と口にするだけ。
 一体どこまで行けるんだと冒険心すら湧いてきた。その冒険心が私を動かし、「にゃあ」と鳴いてみる。……が、さすがにこれは羞恥心が勝つ。もうこれを可愛いと言って貰えるような歳でもない。

 人知れずこみ上げた羞恥心を抱えベッドから出ようとした時、「ぶふっ」と笑う声がした。慌ててペケJを見るがペケJは未だ微睡みの世界に行ったきり。とすれば……、思考が辿りついた答えを求め、振り返るとその肩が震えている。

「い、つから……」
「いや始めはマジで寝ぼけてた。そしたらお前が調子乗るからどこまで行くんだろって様子見てたら……ぶはっ……」
「もっ……忘れて!」
「なんで? 可愛かったぞ? 新しい猫、飼うのもアリかもな?」
「〜っ、意地悪っ!」
「なまえ」
「なに!」
「可愛いな」
「なっ……!?」

 口をポッカリと開ける私を笑い、千冬が口の端にリップ音を鳴らしながらキスを落とす。

「コーヒー淹れるけど、飲む?」
「……飲むっ!」

 ベッドを抜け出す千冬の後を追い、腕に絡みつくと「あ、でもどっか食いに行くのもアリか」と思い付きを口にする。

「千冬って、気まぐれだよね」
「そうか?」

 だけど、私はそういう千冬が大好きだ。

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