「げ、会長だ」

隣で喰夜が嫌そうに吐き捨てるのが聞こえた。視線の先には、狐耳のひと。

「生徒会長……?」

「ん?誰か私を呼んだか?」

呟くと、会長(?)が振り向いた。髪と同色の、金の瞳。目が覚めるような美貌だが、なんだか物凄く偉そう。

「ああ、貴様が芳村遥翔か」

「あ、はい、そうです」

「ふむ……」

会長はじろじろと、値踏みするように頭から爪の先までこちらを眺めてきた。それから、はっとしたように口を開く。

「自己紹介を忘れていた。いくら私とはいえ、礼儀を欠いては恥だ……私は町屋音々(まちやおとね)。照魔高校生徒会の会長を務めている」

「あ、えと、芳村遥翔です」

「知っている」

一刀両断。

そんな表現がぴったりな切り返しだった。

「……まぁいい、さっさと飯を食え。時間がない」

そう言って会長はもとの大勢に戻る。返事も忘れ、ぽーっと突っ立っていたら、振り向いた夢月先輩と目が合った。

「あ、夢月せんぱ――」

「……っ!」

い、と言い終える前に、夢月先輩はくるっと顔を前に向けてしまった。不思議に思って後ろ姿を見ていると、その耳が若干赤くなっているのに気がついた。

何が恥ずかしかったんだろう……。

「おいハルト!早く食えってのー!」

「喰夜煩い」

喰夜に急かされ、俺は謝りながら席に座った。正直かなり腹が減っている。会長の視線を受けて、少し気疲れした。

「そこの皿からテキトーに取って食えよ。あーもうデザートねぇし!」

そう言いながら、喰夜はどこからともなくフォークを取り出してサラダを食べ始めた。……突っ込んじゃいけない気がする。

「遥翔くん。はい、フォーク。……喰夜のことは気にしないで」

「サンキュ。……おっけぃ気にしない」

普通に旨いご飯を食べていると、背中から先輩方の会話が聞こえてきた。

「ほら鷲柄、あーん」

「結構です」

「じゃあ、僕の食べる?」

「いらない」

会長と留雨さんが夢月先輩を取り合っている感じに聞こえる。夢月先輩の素っ気なさが半端じゃない。

そのことに何故か安堵しながら、俺は食事を終えた。

「喰夜、ほらみんなもう食べ終わってるよ?」

「う……もう、少し……」

「いい加減にしなよ……そんなにお腹空いてるんなら、お昼ご飯の前になにか作ってあげるからさ」

呆れたように言う寝夜の肩を、喰夜ががしっと掴む。そして、目をきらきらさせて叫んだ。

「シンヤ、愛してる!」

「……っ、じゃあ行こっ」

寝夜が気恥ずかしそうに言う。

双子の掛け合いを見ていると、微笑ましくなるとともに――悠翔の顔が浮かんで。

心配してるかな、とか

悲しんでるかな、とか

寂しくないかな、とか

そんな気持ちで一杯になった。

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