そう問えば、喰夜は首を振った。

「違うんだなー。まだハルトの部屋がないから、とりあえずオレとシンヤの部屋に寝かせただけだ。ちなみにそれ、シンヤのベッド」

「そうなのか……ごめんな、ありがと」

「気にすんなって。ただ、ムツキさんにはお礼言った方がいいぞ」

ムツキさん。

鷲柄夢月、夢月先輩。

俺を、抱きしめてくれたひと。

「……そう、だな」

「おう!」

自然と笑みを浮かべながら答えると、喰夜がニカッと笑った。

ちょうどそのとき、部屋のドアががちゃりと開いた。現れたのは、喰夜とよく似た外見の、寝夜くん。

「……あ、遥翔くん。起きたんだね」

「寝夜くん……あ、ベッドありがとう。ごめんな」

「ううん。因果応報、だよね」

……因果応報って確か、善いことや悪いことをしたらいつか自分に返ってくるって意味だったよな?その考えは内に秘めておくべきではないのか?

「あー?インガオーホーって、なんかしたらなんか起きるって意味じゃねーの?」

「それは因果関係、かな?」

喰夜の発言を寝夜くんが訂正する。どうやら、喰夜は生物は出来ても国語は出来ないようだ。

「……まあいいや。ハルト、腹減ってんだろ。一緒に食堂行こうぜ」

「あ、うん。……ところで、今何時?」

「朝の7時半、だよ。朝ご飯は8時までだから、少し急いだ方がいいかも」

「うぇー……ほんとに全寮制なんだな」

そんな会話をしながら、ベッドから身を起こす。

喰夜は半袖ワイシャツで、寝夜はそのうえに長袖のカーディガンを着ているが、俺は学ランだ。夢月先輩は紺色のブレザーを着ていたから、この学校――照魔高校はブレザーが制服なんだろう。……アウェイだ。俺は耳も生えてないし、食堂とか行ったら絶対に注目される。

「つーか、俺って食堂とか使っていいのか?」

「おうよ。元の世界に帰る方法が分かるまで、ハルトは照魔の生徒だ!」

「あ……ごめんね、勝手に。まあぼくらが決めたんじゃないんだけど」

じゃあ誰が決めたのだろう。校長……いや、理事長?そのへんだろうな。

「おら急ぐぞ!オレたちだってまだ食ってねぇんだからなっ」

「ぅあ、すまん!」

早歩きで歩き出す喰夜のあとについて行く。寝夜くんも眠たげについてきた。

寮、というのは始めてみるのだが、まあ特に俺の世界でも珍しくはないデザインなんだろう。すれ違うひとが皆獣耳を生やしていること以外は、至極普通の光景だ。

「ほら、着いたぞ!あと20分しかねーじゃんチクショー!」

「喰夜、煩いよ?」

騒ぐ喰夜を、寝夜が冷ややかな目つきで見やる。申し訳ない。

「んー……あそこに座ろう」

そう言いながら寝夜くんは、6列並んでいるテーブルのうち、左から2番目のテーブルを指差した。

「おー、そばにムツキさんと留雨さんがいるぞ」

喰夜が言う。確かに、黒い兎耳と紫の猫耳が見える――それから、夢月さんの隣にはもう1人、俺の知らないひとが座っていた。

距離が近づいてくると、三人の会話が聞こえてくる。

「なぁ鷲柄、こっち見ろよ」

「……嫌です」

「じゃあ僕を見るの?」

「……黙れ」

どうやら、夢月先輩が二人にちょっかいを出されているらしい。

夢月先輩が敬語を使っているということは、知らないひと――金色の髪と狐耳――は三年生だろうか。

というか、知らないひとのブレザーが何故か白い。学年によって色が違うのだろうか?


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