泣き疲れて、夢月の腕の中で寝てしまった遥翔。夢月はそっと遥翔を開放して、薄く笑っている留雨を睨んだ。

「……なに?夢月。僕、何かした?」

「――っ……!」

夢月は何かを言いたそうだが、溢れる感情が言葉にならないのか、ぎりぎりと歯軋りをする。いつになく険悪な雰囲気の二人を、寝夜と喰夜が息を呑んで見つめていた。

「……じゃあ、僕はもう帰るよ。明日提出の課題をやらないと」

喋らない夢月に背を向け、留雨は去っていく。それを見て、夢月は遥翔に視線を落とした。

「なぁムツキさん。……ハルト、どうすんの?」

安心した顔で問う喰夜。夢月は、軽々と遥翔を姫だっこしながら眉を寄せる。

「……取り敢えず、理事長のところへ連れて行く」

「だよなー。うん、オレも行く」

「あ……じゃあ、ぼくも」

「そうか」

短い会話をして、三人は同時に歩き出した。


……温かい。

まるで、自分の流した涙で冷えてしまったように冷たい体を包み込むのは――

(……ベッド?)

現状を認識できず、ぼんやりとしていると、目蓋がどんどん重くなってきた。

(やべ……これは寝る……)

そう思った瞬間、脳裏を昨日の記憶が駆け巡る。

――遥翔くんは、この世界じゃない世界から来たのかもしれないね――

――俺……帰れるの?――

――……遥翔――

「……っ!」

そうだ。

ここは照魔市――俺が生まれた世界じゃないんだ。

留雨さん、夢月先輩、喰夜、寝夜くん。

頭から耳を生やした、不思議な彼ら。

「あ、起きた?」

そんなことを考えていたら、高い少年声が降ってきた。この声は……

「……喰夜?」

「おう!おっはよー、ハルト!」

ニカッと笑う喰夜。覗いた八重歯が愛らしい。

「……どこ、ここ」

とりあえず疑問を解消しよう。

「ん?オレらが通ってる、照魔高校の寮。全寮制なんだぜ!」

寮……。

「じゃあ、俺と喰夜は同室なの?」

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