「あ、そうだ……ここは何処ですか?」

「照魔市だ」

俺が疑問を口にすると、喰夜が真っ先に答えた。

「しょうま……し?」

全く聞き覚えのない地名だ。果たしてここは日本なのか。いやまあこの人たちはみんな日本語話してるけど……。

「うーん……もしかして、だけど……」

留雨さんが困ったような微笑みを浮かべながら言った。

「遥翔くんは、この世界じゃない世界から来たのかもしれないね」

「……」

夢月先輩の表情が険しくなった気がする。寝夜くんが可愛らしく小首を傾げて、柔らかく笑いながら言った。

「成る程、それなら耳がない理由も納得ですね」

うん、まあそれしかないよな。どうしよう俺。帰れなくなったりして――

「――っそうだ!悠翔……!」

「?誰だソレ」

喰夜がきょとんとして問う。

「俺の……弟。今日、誕生日なんだ」

誕生日パーティーをしようと思っていたのに。

プレゼントを渡して、おめでとうって言って、ケーキを食べて。

悠翔は今、何してるんだろう。

今となってはもう、俺のたった一人の家族は。

「っ……う……」

俺がもう帰れなくなったら。

悠翔が一人きりになったら。

嫌な想像ばかりが膨らんで、目尻に涙が浮かんでくる。

「俺……帰れるの?」

絞り出した声は震えて、自分でも情けなかった。みんなが困った顔をするのが見える。駄目だ、泣いちゃ駄目だ――だけど、涙は止まってくれない。

「……遥翔」

ふと、名前を呼ばれて顔をあげる。そこには、夢月先輩の整った顔。相変わらず無表情だが、その黒い瞳には優しい輝きが見えた。

夢月先輩の腕が俺の背中に回って、ぐいっと引き寄せられる。ちょうど俺の顎が夢月先輩の肩に乗っかる感じで、俺は夢月先輩に抱きしめられた。

先輩は、「泣くな」とも、「大丈夫」とも言わなかった。ただ優しく抱きしめてくれる。その温もりに、何だか胸がきゅーっと切なくなって、俺は声を上げて泣いた。


[ 2/6 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -