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「あ、そうだ……ここは何処ですか?」
「照魔市だ」
俺が疑問を口にすると、喰夜が真っ先に答えた。
「しょうま……し?」
全く聞き覚えのない地名だ。果たしてここは日本なのか。いやまあこの人たちはみんな日本語話してるけど……。
「うーん……もしかして、だけど……」
留雨さんが困ったような微笑みを浮かべながら言った。
「遥翔くんは、この世界じゃない世界から来たのかもしれないね」
「……」
夢月先輩の表情が険しくなった気がする。寝夜くんが可愛らしく小首を傾げて、柔らかく笑いながら言った。
「成る程、それなら耳がない理由も納得ですね」
うん、まあそれしかないよな。どうしよう俺。帰れなくなったりして――
「――っそうだ!悠翔……!」
「?誰だソレ」
喰夜がきょとんとして問う。
「俺の……弟。今日、誕生日なんだ」
誕生日パーティーをしようと思っていたのに。
プレゼントを渡して、おめでとうって言って、ケーキを食べて。
悠翔は今、何してるんだろう。
今となってはもう、俺のたった一人の家族は。
「っ……う……」
俺がもう帰れなくなったら。
悠翔が一人きりになったら。
嫌な想像ばかりが膨らんで、目尻に涙が浮かんでくる。
「俺……帰れるの?」
絞り出した声は震えて、自分でも情けなかった。みんなが困った顔をするのが見える。駄目だ、泣いちゃ駄目だ――だけど、涙は止まってくれない。
「……遥翔」
ふと、名前を呼ばれて顔をあげる。そこには、夢月先輩の整った顔。相変わらず無表情だが、その黒い瞳には優しい輝きが見えた。
夢月先輩の腕が俺の背中に回って、ぐいっと引き寄せられる。ちょうど俺の顎が夢月先輩の肩に乗っかる感じで、俺は夢月先輩に抱きしめられた。
先輩は、「泣くな」とも、「大丈夫」とも言わなかった。ただ優しく抱きしめてくれる。その温もりに、何だか胸がきゅーっと切なくなって、俺は声を上げて泣いた。
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