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どうしてこうなった。
無表情を取り繕うとして見事に失敗し、歪な表情の俺を見つめる瞳が八つ。つまり、4人に取り囲まれている。4人が女子だったら幸せなのに……全員男だ。しかも――
全員耳付き。
紫の猫耳、黒い兎耳、茶色の犬耳が2人。なんかたまにぴくぴく動いてるから本物っぽい。
(ほんと……どうしてこうなった)
俺は視線を感じながら、先程の出来事を思い出した。
放課後、俺は家に向かって歩いていた。なんとなくコンビニに寄ってから、そのまま商店街を突っ切って帰るつもり。
「……ん……?」
商店街に、見慣れない店が建っていた。新しい店だろうか?珍しい。
(なんの店だろ?)
看板もなく、店の名前すら分からない。なんか暗いし、普段の俺だったら絶対に入らないのだが、何故だか俺は、ふらふらとその店に歩み寄っていた。
木製のドアノブに手をかけて
ゆっくりと、慎重にまわせば
扉は、なんの抵抗もなく開く。
「――っ?」
店内に足を一歩踏み入れると、途端に浮遊感に襲われた。足は地面についているはずなのに、どこまでも上昇していってしまいそうな感覚。
「ひっ……な、何だこれ!?」
気持ち悪いし、怖い!俺はパニックに陥ったが、何故か体は動かない。混乱は深まるばかり。
そして俺の意識は、なんの予兆もなく闇に沈んでいった。
「……。……っ!?」
そして目を覚ましたらこの状況である。わけがわからない。
「……なぁ、あんた」
無言の空間に耐えられなくなったのか、茶色の犬耳(八重歯)が声を出した。
「……何でございましょう」
「えーっと……これは?」
犬耳を指しながら問う彼。
「いや……うん?普通はないかと……」
「……」
犬耳が妙な顔をして黙りこくった。すると犬耳二号が即座に口を開く。
「あの、お名前は?……あ、ぼくは霧崎寝夜(きりさきしんや)です」
「俺は芳村遥翔(よしむらはると)。えっと……寝夜くん?なんで君たちの頭には可愛らしい耳が生えているのでしょうか」
「なんで……と言われましても」
困ったように眉を寄せる寝夜くん。なんだか女の子みたいだ。
「……シンヤ、生物しっかり勉強しとけ。ハルトだっけ?この耳は、好きな相手にアピールするために生えてんだよ」
ぴくぴくと犬耳が動く。……確かに可愛いが、男性としての魅力ではないのではないか。
「あ、ちなみにオレの名前は霧崎喰夜(きりさきくうや)な。シンヤの双子だ」
「双子……確かに顔立ちは似てるな」
浮かべる表情や雰囲気が違いすぎて分かりづらいけど。喰夜がやんちゃそうなのに対し、寝夜君はまるで女の子のように可愛らしい。
「遥翔くん。僕は高倉留雨ね」
「……鷲柄夢月だ」
上から、紫色の猫耳と黒い兎耳。なんとなくこの二人からは年上オーラを感じる。
「……あの、皆さん年齢は?」
「僕と夢月が17歳で高二。寝夜と喰夜が16歳で高一だよ。遥翔くんは?」
「俺は高一です……高倉先輩」
「んー……留雨さんって呼んでくれると嬉しいかも。夢月のことも、夢月さんって――」
「――留雨、何を勝手に……!」
「嫌なの?」
鷲柄先輩は留雨さんを無視して俺の方を見た。すっごい目つきが悪いけど、整った顔をしている。眼鏡似合うなあ。
「芳村遥翔。俺のことは好きに呼べ」
「あ……はい。じゃあ、夢月先輩で」
「……好きにしろ」
言って、夢月先輩はぷいと視線をそらした。
「えーと……」
再び沈黙。
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