これで、僕の物語は終わり?
……なんでだろう、僕はまだ、『終わり』じゃないって思ってる。
リンに刺された首も、レンに抉られたお腹も、すごく痛い。血がどくどく溢れて、体がどんどん冷たくなっているのに。
僕はまだ、誰かを信じてる。
「れ……ん、」
愛しげな声で、KAITOはレンの名前を呼んだ。KAITOを死の淵に追い詰めた少年の名前。
「……兄さん!大丈夫なの!?」
リンが叫ぶが、どう見てもKAITOはもう助からない。呼ばれた当人であるレンは、無表情でKAITOをじっと見つめている。
「僕ね、レンのこと……」
KAITOはそこで言葉を切った。喉が痛いのだろう、顔が苦しげに歪んでいる。
だがその瞳には、強い光が宿っていた。
「……すき、だよ……」
からん、と、レンの手からナイフが滑り落ちる。リンがしゃがみ込んで泣き始めた。
「……ぁ……っあああああ!?KAITO、何で!?嘘、や、やだぁ……!」
正気にかえったレンが半狂乱して叫ぶ。碧眼からぼろぼろと涙が零れ落ちた。
「俺が!?俺がやったの、俺の所為なの!?」
「――違うよ!あたしの所為だ、あたしが……!」
ねぇ、とKAITOが呟くと、2人は途端に静かになった。頬を濡らして耳をかたむける。
「キス、して」
「っ……」
レンが顔を歪めて、優しく――慈しむように、KAITOの唇に自らの唇を重ねた。唇が離れると、KAITOは幸せそうな微笑みを浮かべる。
「僕は……きっと、また……」
そう言ってKAITOは、ゆっくりと瞳を閉じた。
「……KAITO……死ん、だ……の?」
レンが呆然と呟く。
「……そうだよ。あたしたちの、所為で」
それに、とリンは淡々と続けた。
「ミク姉も。あたしが、殺した」
「――っ!」
あまりに機械的な口調に、レンはリンを睨み、そして言葉を失う。
彼女の瞳からは、とめどめなく涙が溢れていた。
「なんで……なんで、こうなっちゃったのかなぁ……?これが、あたしたちの終わりなの……?やだ……やだよぅ……っ」
「……」
再び嗚咽を漏らすリン。レンはそっと視線をKAITOの亡骸にやり、その瞳が潤みだしたとき。
響いたのは、
『――まだだよ、』
KAITOの声。
『まだ、終わってないから……大丈夫』
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