Broken you13


首にあてがわれたナイフが、深く深く沈み込んでくる。痛くて、熱くて、僕はもう何も考えられなくなった。

「あハははハはっ!痛い?ねぇ痛イ!?」

「あぁあっ……!痛い、痛いよぉ……!リン、お願い……っ……やめ……!」

ただひたすら、思ったことが口から出ていく。生理的にも精神的にも、瞳からとめどめなく涙があふれた。

痛みで視界が霞んでいく。温かい液体が、首を伝ってぽたぽたと垂れる音が聞こえる。

もう、やだよ……誰か……

助けて――

「――KAITOっ!」

冷たい刃の感触が消えて、血で汚れたナイフが床に跳ねた。

「KAITO……!KAITOっ!」

僕の名前を、泣きそうな声で呼ぶのは。

「れ……ん」

どうやら、レンがリンを突き飛ばしたらしい。徐々に状況を把握していくと、安堵で心が満たされていった。それとともに、意識が朦朧としてくる。

「――ナんで、邪魔すルの?」

背筋が凍るような、低いリンの声。霞む視界のなか、レンがあのナイフを拾うのが見えた。

「KAITOは、絶対に――ずっと、俺と一緒にいるんだ。その邪魔をしているのは、リンの方だろ」

「ふざケないでッ!」

リンの甲高い、ヒステリックな叫び。その大きな瞳から涙があふれた。

「あたシの……!あタしの、気持ちを知っテて!レンはぁ……っ!」

もう言葉にならないのか、リンは嗚咽を漏らす。

僕は。

重い体を、無理やり動かして。

血まみれのリンを、そっと抱きしめた。

「リン……ごめんね……ごめん……」

「……っ」

リンが息を呑む。僕は、きつくきつくリンを抱きしめる。

「う……ぁ……にい、さ……」

きゅ、とリンが僕の服を掴んだ。

「っ……ごめんなさっ……ごめんなさぃぃ……!」

ひび割れていた声が、もとの可愛らしいものに戻っていく。暗かった瞳も、だんだんと光を取り戻してきた。

……よかった……

そう思ったとき、ふいに激痛が僕を襲う。

「ぅああああっ!」

「兄さんっ!?」

「なに、してるの?KAITOぉ」

嘘。

なんで――なんでっ!

「KAITOは、俺のものなんだよ?」

「――い゛っ……ああ゛ああ……!」

霞んでいた視界が、一瞬鮮明になって。

すぐに真っ赤に染まった。






[ 24/36 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]