首にあてがわれたナイフが、深く深く沈み込んでくる。痛くて、熱くて、僕はもう何も考えられなくなった。
「あハははハはっ!痛い?ねぇ痛イ!?」
「あぁあっ……!痛い、痛いよぉ……!リン、お願い……っ……やめ……!」
ただひたすら、思ったことが口から出ていく。生理的にも精神的にも、瞳からとめどめなく涙があふれた。
痛みで視界が霞んでいく。温かい液体が、首を伝ってぽたぽたと垂れる音が聞こえる。
もう、やだよ……誰か……
助けて――
「――KAITOっ!」
冷たい刃の感触が消えて、血で汚れたナイフが床に跳ねた。
「KAITO……!KAITOっ!」
僕の名前を、泣きそうな声で呼ぶのは。
「れ……ん」
どうやら、レンがリンを突き飛ばしたらしい。徐々に状況を把握していくと、安堵で心が満たされていった。それとともに、意識が朦朧としてくる。
「――ナんで、邪魔すルの?」
背筋が凍るような、低いリンの声。霞む視界のなか、レンがあのナイフを拾うのが見えた。
「KAITOは、絶対に――ずっと、俺と一緒にいるんだ。その邪魔をしているのは、リンの方だろ」
「ふざケないでッ!」
リンの甲高い、ヒステリックな叫び。その大きな瞳から涙があふれた。
「あたシの……!あタしの、気持ちを知っテて!レンはぁ……っ!」
もう言葉にならないのか、リンは嗚咽を漏らす。
僕は。
重い体を、無理やり動かして。
血まみれのリンを、そっと抱きしめた。
「リン……ごめんね……ごめん……」
「……っ」
リンが息を呑む。僕は、きつくきつくリンを抱きしめる。
「う……ぁ……にい、さ……」
きゅ、とリンが僕の服を掴んだ。
「っ……ごめんなさっ……ごめんなさぃぃ……!」
ひび割れていた声が、もとの可愛らしいものに戻っていく。暗かった瞳も、だんだんと光を取り戻してきた。
……よかった……
そう思ったとき、ふいに激痛が僕を襲う。
「ぅああああっ!」
「兄さんっ!?」
「なに、してるの?KAITOぉ」
嘘。
なんで――なんでっ!
「KAITOは、俺のものなんだよ?」
「――い゛っ……ああ゛ああ……!」
霞んでいた視界が、一瞬鮮明になって。
すぐに真っ赤に染まった。
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