ミクの声が聞こえた気がして、僕は体を起こした。レンが不思議そうに見上げてくる。
「ちょっと、ミクの様子を見てくるね」
「んー?……おう」
てきとうに体を拭いて服を着た。レンの視線を感じながら部屋を出る。
なんだか、嫌な予感がした。
ミクの部屋は、レンの部屋があるこの階のひとつ下のフロアにある。そして、リンの部屋も。
「……?」
階段の途中で、僕は首を傾げた。なんだか、鉄錆の用な臭いがする。
嫌な予感がどんどん膨らんで、冷や汗が湧き出てきた。
階段を降りきる。
鉄錆の――血の、臭いが強くなる。
「っ……!」
生理的な嫌悪感をもたらす、強烈な臭い。
何?何が起きてるの?
気付けば、僕は息を荒くしていた。緊張と不安で足が震える。
こんなに強烈な臭い――いったいどれだけの血が。
「――ぁ」
頭の中がぐるぐるして、気付かなかった。
いつの間にか、目の前にリンが立っていた。
「にい、さン」
ひび割れた奇妙な声。乱れた金髪に暗い碧眼。
それから――
「リン……、その血……!」
手首から流れ出すリンの血と、リンの体を汚す血。むせかえるような血の臭いに、思わず眉を寄せた。
「あハ……こわいカお」
そう言ってリンは、片手に持ったナイフをぺろりと舐める。
「なカったことニ、しヨ♪」
「……っ」
可愛い妹であるはずのリン。
その笑顔が、なによりも恐ろしく思えて、僕はリンに背を向けて走り出した。
「あハっ☆おイかけっこだね♪」
リンは無邪気にそう言う。
「はぁっ……っく……はっ……!」
……あの血は、誰の血?
リンから遠ざかっているのに、血の臭いが強くなっているのは何故?
「――っ!」
答えは。
僕の目の前にあった。
「……ぁ……あぁっ……」
喉を切り裂かれた、ミクの
みくの、したい――。
「ぅそ……だ……」
ひた、
と。裸の足がたてる足音。
「嘘だ……!」
「ほんトだよ?」
ひた、
と。首にナイフが当たる感触。
「みくねェは、もウいなイ……」
リンは愛しげに、僕の体に腕を回して。
「……それカら、にいサんもね」
「――ぅああぁあぁっ!?」
首が――
――熱い!
「ばいバい♪」
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