目を開けるともうそこは安倍家の屋敷ではなく、知らない風景が広がっていた。

「昌浩」
「高淤の神?!」
「一つ言い忘れていたが、鵺には羽衣狐という妖怪が関わっているこれ以上は我からは言えん。文字や言葉はお前たちの時代とは異なるものだから一応、読み書きや会話はできるようにしといた。」
「何から何までありがとうございます。」
「あっそうそう、世界を渡った影響で姿が子供に戻っているからな」

そう言い残して高淤の神は消えていった。

「え?…………ぇええええええええええ?!」

せっかく…せっかく伸びたのに!あの成長痛という試練を乗り越えて、やっと伸びたというのに子供に戻るなんて…!

「はは、もうどーでもいいや…とりあえずもっくん呼ぼ……」

もっくん驚くだろうなと思いながら名を呼んだ。

「紅蓮」

名を口にしたとたん紅蓮が現れ、物の怪の姿に変わって行った。

《やっと呼んだか…っておい!どうしたんだその姿?!》

今までの事を説明するとものすっっっごい憐れんだ視線を頂いた。
もっくん、頼むからそんなかわいそうな物を見るような目で見ないで…

《…で、その羽衣狐という妖怪が鍵を握っているんだな?》
「うん、とにかくその羽衣狐について調べなきゃ。」
《そうだな》


ぞくっ


「っ!もっくん!」
《ああ、こっちの方向だ!》

いきなりたくさんの妖気を感じ、禍々しい妖気が広がった。

「太陰!俺たちを妖気のする方へ!」
「了解!」

すぐさま太陰を呼び、妖気が集まる方へ向って行った。



昌浩達がついた桜が咲いた公園のような所に二人の男女が立っていた。
そして女の人の方は男の人に向かって刃物を突きたてようとしていた。

「危ないっ!―――縛!」
「何っ!」

女の行動にいち早く気づいた昌浩は瞬時に動きを止め、物の怪達は男の人を避難させた。

「くっ!貴様は何者だ!」
「ただの通りすがりの陰陽師だ!」
「皆の者!出てこい!」
「いくぞおおおお!」
「「「「「「ぉおおおおお!」」」」」

女は周りにいた妖怪たちを呼び、昌浩達に襲いかかった。

「行くぞ!勾陳、六合、朱雀、天一、玄武、青龍!こいつらを蹴散らせ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
物の怪も紅蓮の姿に戻り、太陰も加わって参戦し始めた。

「大丈夫ですか?」
「あっああ、ありがとう、助かったところd「お父さん、どうしたの?」リクオ逃げろ!ここは危ない!」

その様子を見ていた女はにぃと口をつり上げ、男めがけて向かってきた。

「昌浩!」

紅蓮はすぐさま向かうが間に合わない。

「死ねぇぇぇぇ鯉伴!!」
「っ、禁!」

紅蓮の声で気付いた昌浩がすぐさま結界を張った。


バリィィィン


しかし咄嗟に張ったため、勢いに負けて壊れてしまった。

「しまっ…!」


ザシュッッッ!


「なっ!」
「っつ〜!」
「「「「「「「「「「「「昌浩!」」」」」」」」」」」」
男を狙った刃は結界を張るために前に出ていた昌浩に食い込んだ。その瞬間、女の様子がおかしくなった。

「あっ…わ、わたしは……いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ガタガタと体が震えだし、女からたくさんの妖気があふれ出した。

「こっこれは!」
「そうじゃ!お前は愛する夫を殺そうとし、関係のない子供を刺したのじゃ!!」
「羽衣狐様!ご無事でございますか?!」
「妾は大丈夫じゃ、目的の一つは達成できた。引き上げるぞ!」
「しかし、鯉伴を始末しなければ、今後、我々の障害となるのでは?」
「そうじゃが今は分が悪い、今回は引き上げじゃ!」
「はっ!」

そう言って女、もとい、羽衣狐は妖怪たちを引き連れて帰って行った。

「アイツが…羽衣狐……ゴホッ!」
「昌浩様!直ぐに移し身を!」
「ダメだ…それじゃ、天一が…」

止める昌浩をよそに天一は準備を始め、朱雀はそれを顔をしかめながら見ていた。

「なぁ、俺に直させてくれねぇか?」
「えっ!」

男はそう言ってかがむと、昌浩の傷口に手を当てた。するとその部分から光が発せられ、傷はどんどん塞がっていった。

「…すごい」
「これで大丈夫だ。助けてくれてありがとな。俺は鯉伴。こいつは息子のリクオだ。」

するとリクオと呼ばれる少年は前に出てきた。

「ぼく、ぬらリクオっていうんだ!たすけてくれてありがとう!きみのなまえは?」
「ま、昌浩」
「まさひろっていうんだ!よろしくね!!」

急に名前を尋ねられたことに少々驚きつつも、教えればぱぁっとヒマワリが咲いたような笑みを向けられる。

「あっそうだった!みんな戻ってくれていいよ。ありがとう、助かった。」
「別にかまわん。助けが欲しければ直ぐに呼べ。」

勾陳が言うと、神将達もうなずいて帰って行った。

「…昌浩は陰陽師なのか?」
「うん。鯉伴さんは妖怪?」
「!」
「あっでも、なんか違うような気もするし、完全な妖怪じゃないっていうか…」
《半妖ってところじゃないか?》

物の怪の言葉にはっとし

「そう、それだ!…あの、間違っていたら申し訳ないのですが、鯉伴さんは半妖ですか?」
「そうだと言ったら?」
「えっ?」
「俺が半妖だったら、さっきの奴らみたいに滅するのか?」

鯉伴の言葉に昌浩はきょとんとして

「なんで滅しなきゃいけないの?」
「なんでって、お前たち陰陽師にとって妖怪は“悪”なんだろ?ふつうは滅するもんじゃねぇのか?」
「妖怪が全員“悪”ってわけじゃないでしょ?たしかに悪い奴もたくさんいるけど、それは人間だって同じだ。」

俺は知ってる。妖怪がみんな悪いやつじゃないことを。毎回潰してくるけどいつも協力してくれる雑鬼達、俺をご主人と慕ってくれて助けてくれる車之輔。ほかにもたくさんの妖怪たちにあったけど優しい奴らはたくさんいた。

「…くくく、はっはっはっは!おめえ面白いな、気に入った!家に来い!親父たちにも紹介してぇし、助けてくれた礼もしたい!」
「えっ、でも…」
《俺達が行っても大丈夫なのか?陰陽師だぞ?》

物の怪の言葉に、にやりと微笑むと

「なぁに、大丈夫だ!あいつ等はそれくらいでビビったりしねぇよ。奴良組はそこまで軟じゃねぇ。」
「奴良組って?」

首をかしげる昌浩をみて、鯉伴は あぁ と納得すると空気を一変させた。

「改めて自己紹介をする。百鬼夜行、奴良組二代目総大将、奴良鯉伴だ」
「《……ぇええええええええええ!!!!》」



桜が満開に咲く公園には、驚く昌浩達をみて笑う鯉伴とリクオの姿があった。

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