空と雨

放課後の学校。あまり校舎内に留まっていると風紀委員たちに注意というなの暴力が待っているからあまり長居はしたくないが忘れた宿題を取りに教室に戻っていた。
だいぶ日が落ち、教室もオレンジ色に染まっている。
急いで宿題を回収し外へ出るが、ふとグラウンドを見るとバットを振り続ける人影が見えた。

「あ、山本!」
「ん?天宮…」
「一人で自主練?」
「まぁな。最近なんかうまく行かなくてよ…このままじゃスタメン落ちかもしれねーんだ…」
「そうなんだ…」

俺、どうしたらいいのかな?と弱弱しく笑う山本。昔の俺は努力が大事とか自分ができもしないことを言って骨折の原因を作ってしまったのを覚えている。
それに、山本にとって野球はすっごく大切で俺の守護者になってからも野球は大切な物だった。
だからこそ、山本には身体を大事にして欲しい。

「…休憩してみたらどうかな?」
「え…?」
「スランプの時って無理にやっても上手く行かないからさ、休んだらいいんだよ。そしたら次やるときは元に戻ってると思うよ」
「だけど…」
「んーじゃあこうしよう!スランプは頑張ってる山本に野球の神様からのプレゼントなんだよ!毎日頑張ってる山本に身体を休めなさいっていうお達し!!」
「…ははっなんだそれ、でもそうかもな…神様のプレゼントか…」
「そーいうこと。あんまり思いつめてもいいことないよ?」
「…ありがとな。もう少し練習したら今日は帰ることにする」
「うん。じゃあまたな、山本」
「おう、天宮も気を付けてな!」

どこか曇っているも笑顔で手を振ってくれる山本。
山本に声が届いたかは分からない。でも何か少しでも変わってくれていることを願おう。






「大変だ!!山本が屋上で自殺するって…!!!」

バタバタを音を立てて入ってくるクラスメイト。その知らせに次々とみんなが屋上へと上がっていく。
やっぱり俺の声は届いていなかったのか…とショックを受けるが足早に屋上へと向かう。

「山本…」
「…あぁ、天宮か…」

フェンスに手をかけゆっくりと振り返る山本。その手には痛々しげに包帯が巻かれていた。

「山本…その手…」
「…俺、バカだよな。手、こんなにしちまって…野球の神様に見放されちまった」
「…だから死ぬの?」
「野球が出来ないなら死んだ方がマシだ」

死んだ方がマシ。という言葉を聞いた瞬間、おもわず無言で山本に近づくと引っ叩いた。
パシーンと音が鳴り響き周りも叩かれた本人も目を丸くしている。
手を出すつもりは全くなかったが思ってた以上に空の心は静かだった。

「ふざけるな…死んだ方がマシって本気で思ってるの?」
「………」
「骨折なんてそのうちくっつく。右肩を壊して投げれなくなったから左で投げようとする選手だっているのに、山本は骨折程度で野球やめるの?」
「それはっ…」
「野球は、山本にとってその程度の物だったの?」
「ッ…違う!!」

うん、知ってるよ。俺は知ってる。山本がどれだけ野球を大切にしていたか。どれだけ好きだったのか。なのに山本は野球を選ばず俺についてきてくれた。感謝しきれないからこそ、今の言葉は我慢することが出来なかった。

「死んだら終わりなんだ…終わりなんだよ。野球どころか何もできなくなる。どんなに願っても戻って来ないんだ…」
「…っ!天宮…?」

今の俺はずいぶん情けない顔をしてるんだと思う。山本は助かるって分かってるのにこの世界の俺(綱吉)が死ぬ気で止めるのにそれでも言わずにはいられなかった。

「…俺は、悲しいよ」
「え…?」
「山本が死んだら俺は悲しい。きっとここにいるみんなも…山本のお父さんも」
「…ぁ」

俺の言葉にはっと目を開く山本。
言いたいことは言った。前の言葉は届かなかったけどこれだけは届いてほしいと願いながら。
茫然としている山本を尻目に踵を返すと人の群れの中へと戻っていく。ちょうど入れ替わるように綱吉が大群の中から押されて出てきた。

「うわぁぁっ」
「沢田」
「あ、天宮…って山本!?」
「沢田、あとは頼んだよ」
「…え?」

驚く綱吉の肩をぽんっと叩くと屋上から出ていった。

山本を助けてくれよ?
山本を助けることができるのは綱吉おまえだけなんだから。
その後、教室の窓から山本と死ぬ気の綱吉が降ってくるのをみてほっとしたように笑った。


(雨を包めるのは大空だけだ)


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[mokuji]



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