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(あ、危なかった…!!)


沢田家から微妙に逃げるように去った空はバクバクと鳴り響く心臓を落ち着かせながら大きく深呼吸をする。

母さんの手料理はとっても魅力的だったがあのままあの場にいて根ほり葉ほり聞かれたらたまったもんじゃない。自分が知っている父親とはまた違った雰囲気の家光をみて、確かにあの人は自分の父親だったのだと再認識した。

今日見た表情はどれも似た部分はあれど、けして知っているものではなかった。綱吉の時に見ていたダメ親父の顔も、CEDEFとしての顔でもない、赤の他人と対峙する顔。そんなものを見せられれば結局綱吉はいくら反抗しようと家光の息子だったのだと思い知らされる。


「ていうか、一般人相手にあれはないだろ…」


全く持って大人げない。こちとらか弱い一般人なんだと呟きながら山本の家へと向かっていると通りかかった公園に見慣れた銀髪が視界の端を過った。


「あれ…隼人?」

「んあ?…空じゃねーか」

「こんなところで何してんの?」


手紙を渡す予定だったし、ちょうどよかったと近づいてみると隼人のボロボロ具合がよくわかる。服はあちこち焦げており、よく見れば火傷と思われる傷も見えた。おそらくダイナマイトによるものだろうと想像できるがあまりの怪我の多さに眉をひそめた。


「いや、その…」

「というかなにその傷。どうしてそんなボロボロなんだよ」

「これは…ただドジッただけだ」

「まったく、どうドジッたらそんなボロボロになるんだよ…。ちょっと待ってて」


そういって公園に配置されてる手洗い場に行くとハンカチを濡らし隼人へと渡す。


「はい、これ。救急箱なんて大層なものは今持ってないから手当してあげられないけどこれで火傷したところ冷やして」

「おおう…ありがとな」

「どういたしまして」


渡されたハンカチをきょとんと見つめるも照れくさそうに受け取る。ばつが悪そうにも見えるその表情は何かにいら立っているようにも見えた。


「…で、何悩んでんの?」

「は…?何言って」

「こんなに眉間にしわ寄せて、何にも悩んでませんってことないだろ」

「……どうしたらいいかわんねぇんだ」

「……」

「俺は、強くならなきゃならねぇ。10代目のためにも、俺のためにも、今のままじゃ全然だめなんだ。もっともっと強くならなきゃなんねぇのに、教えを請いても相手にされねぇし、自分なりに工夫してもうまくいかねぇ…」

「……隼人」

「こんなんじゃ10代目をお守りすることもできやしない!!!足ばっか引っ張って10代目を危険に晒ちまう!!何が右腕だ…!あの方のためなら命なんていくらでもかける覚悟はできてんのになんで!!!!」

「隼人、それは違うよ。そんなのは覚悟じゃない」

「なっ…!」

「隼人のそれは覚悟なんかじゃない」

「てめぇに何がわかる!!」


ギロリとこちらを睨み付け、空の胸倉を掴むが空はそのまま隼人を見つめる。


「わかんないよ。けど、簡単に命を懸けるなんてのが本当の覚悟じゃないことぐらい俺にだってわかる」


たしかに、かつて一人の少女のために命を懸けた人がいた。助けられなかった彼らはそれこそ世界を、仲間を守るために命を懸けたのだ。大切な人のために捧げられていった命は今まで見てきた。でも、隼人の覚悟と彼らの覚悟は違う。

似て非なるもので、まったくもって…笑えない。


「…隼人はさ、なんでそんなに強くなりたいの?沢田のため?」

「当たり前だ!!」

「じゃあなんで沢田を悲しませるようなことするんだよ」

「何言って…」

「沢田だけじゃない。俺も、山本も京子ちゃんもハルも、友達の命ないがしろにされてうれしいわけないだろ!!」

「っ…」

「自分のために隼人が死んで、沢田が喜ぶと思う?」

「喜ぶわけねぇ…あの方はどんなことにも心を痛める優しいお方だ…」


呆然とする隼人をよそに掴みかかっている手を除けるとカバンから預かっていたプリントを取り出す。


「はい、これ。先生から預かってたプリント」

「え…」

「もともとこれ渡すために来たんだし。それに、もう大丈夫そうだから」


眉間のしわ、取れただろ?と微笑みながら踵を返す。遠くなっていく背中を眺めていた隼人は慌てて声を張り上げる。


「空!その、いろいろ悪かった!…ありがとな」

「どういたしまして!」


こちらを見る隼人の目は答えを見つけられたらしくすっきりしている。これならもう、大丈夫。

去っていく空を見つめながら、隼人は自分の手を握り呟いた。


「俺に見えていなかったのは…自分の命だったんだな」



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