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逃れる道がないことなんて、ずっと分かってた。でも認めたくなくて、気づきたくなくて、ずっと関係ないと言い張っていた。…だけど


『……9代目』


『綱吉君…本当いいんだね?』


『はい。もう、決めましたから』


『…………君には、本当にすまないと思ってる。でも、それ以上に君しかいないと私は…歴代私達は思ってるんだ』


『…9代目、俺は今のボンゴレをぶっ壊します。プリーモが作り、今までの歴代たちがたくさんの業を引き換えに築き上げてきたこのボンゴレを』


『………」


『そして、――――――』








「……随分と懐かしい夢だな」


ぼんやりとする思考を働かせるように寝たまま手を頭に乗せ、くしゃりと髪を握る。

リボーンが沢田綱吉の所に来るようになってから”前”の記憶をよく夢に見るようになった気がする。楽しい思い出も、悲しい思い出も、まるで”沢田綱吉”を忘れるなと言われているようだ。


継承式の前日の夢を見てしまうなんて、ヴァリアーとのリング戦が近づいているからだろうか。

あの日俺はすべてを背負った。業も、歴史も、仲間も、自分のちっぽけな両手では抱えきれないんじゃないかと思うほどのものを背負うと9代目に誓ったのを覚えている。

形は変われど、ボンゴレリングを見るたびにこんな指輪のためだけにたくさんの血が流れ、人々が希望を夢見、絶望へと沈んだ。世界の一角を担うというが、なぜ指輪何ぞにしたのかは永遠の謎だ。持ち運びが良すぎるのにもほどがあるだろ、とツッコミを入れたときは何故かリボーンに蹴られたが。


アルコバレーノのおしゃぶりやマーレリング、ボンゴレリングがどれほどの価値を持つのかは分かっている。しかし、自分にとってあの指輪は最後まで呪われた指輪で、大切なものを守るための道具でしかなかった。


「……そういや、あいつ<ザンザス>にとってのボンゴレリングってなんだったんだろ…?」


権力の象徴とかボスになるための必須アイテムとかいろんな仮説が浮かぶがどれもいまいちピンとこない。


「案外、9代目に認めてもらいたかっただけなのかも」


幼い頃から次期10代目として育てられ、10代目として生きてきたザンザス。ボンゴレ10代目という肩書は候補というだけでも色々なものを引き寄せるというのに、幼いザンザスは10代目という立場をどういう思いで背負ってきたのだろうか。いい物よりも悪いものを多く引き寄せるであろうそれをすべて受け止めようとした矢先に、自分よりも弱いちっぽけな存在に横取りされたらそりゃ怒りも湧き上がるわ。……だからと言って関係者全員皆殺しはやりすぎだけど。

たぶん、俺<沢田綱吉>に純粋な殺気を向けたのはザンザスが初めてだった。骸にも殺気がなかったといえば嘘になるが、利用するのが目的だったからか本当の殺意というものは感じなかったし、そういう意味では、自分にとってザンザスたちとの出会いは衝撃的なものだったのだ。


賽を投げられた今、リング争奪戦を止めることなどできない。


「…頑張れよ、俺」


願わくば、”前”と同じ結果になりますように。



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[mokuji]



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