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凪が骸の下へ行き、安堵とともにヴァリアーとの戦いが始まるのだと悟る。
ボンゴレリングの正統なる所持者を決めるリング争奪戦。
雲雀さんが、お兄さんが、そして――――山本が、マフィアという裏世界に片足を突っ込んだ明確な戦い。
骸の件は、まだ”ごっこ”で済んだ。けど、このリング争奪戦は”ごっこ”じゃ済まされない。あの時は自分も、仲間も殺されたくなくて、誰も死なせたくなくて、己の状況に不満を持ちながら必死に戦った。
指輪なんていらない。ボスの座なんていらない。いくらそう叫んでも戦うしか道がなく、そして勝ったからには指輪を…ボンゴレを継承するという“義務”が発生する。そんな義務ふざけるなと思うだろうけどすべての候補者を押しのけ、指輪に認められたというのはそういうことだと、ボスになってよくわかるようになった。といっても、そんな義務何ぞクソくらえという気持ちは今でも変わらない。自分にとってボンゴレはすべての元凶であり、忌み嫌う場所であると同時に何物にも代えがたい大切な場所で…“自分たち”の居場所だった。
自分の記憶と同じなら、沢田たちはヴァリアーに勝ち、そして裏世界へと明確な一歩を踏みだすのだろう。かといって、それを避けるために戦わなければ沢田に関係する者全員が殺される。ザンザスが口だけの脅しで済むような男ではないのは十分にわかっている。もうこの時点で沢田たちには戦う以外の選択肢はない…
「どっちに行っても詰むとか…皮肉かよ」
思わず悪態を付くが、そんなことをしても何も変わらない。むしろ変わるならとっくの昔に自分の道だって変わってる。
憂鬱な気持ちを吐き出すようにはぁ…と深いため息をつくと、ポケットの中から聞きなれたバイブ音が流れてきた。
電話なんて珍しいと思いながら携帯の表示を見ると非通知と表されており、なぜかリボーンの姿が過ぎる。
(まさか…ね)
「はい、もしもし」
『チャオっす。これからみんなで遊ぶから並盛商店街に集合だゾ』
無断欠席は許さねーからな。と一方的に電話は切られ、ツーツーとお馴染みの音が流れる。
やっぱりリボーンかよ!!という空のツッコミは心中の中で抑えられ、諦めたようにしぶしぶと着替え始めた。
◇ ◆ ◇
ドカーンという建物を破壊する爆音と人々の悲鳴という非日常な音が響き合う中、空は長い銀髪の影を見つけ、やはり来たかと小さく舌打ちをした。
「空」
「リボーン…」
山本たちが応戦しているのを見ているとリボーンが音もなく近づく。
「ここはツナたちに任せてビアンキと一緒に京子たちを安全な場所に避難させろ」
「わかった」
リボーンの指示にうなずくと、すぐさま近くにいたイーピンやランボを片手に抱え、ふぅ太の手を引く。
「京子ちゃんとハルも早く!!ここは危ないから!」
「で、でもツナさんやリボーン君たちが…!」
「ツナくんたちも一緒に逃げないと!」
心配そうに後ろを振り返る京子ちゃんたちに、彼女たちはこれまでもこうやって心配してくれていたことがうかがえる。いや、これから、といった方が正しいのかもしれないが、それでも彼女たちを毎回不安にさせていたのには違いない。
「京子ちゃん、ハル……沢田たちなら絶対大丈夫だ。そう簡単にやられるほど、沢田たちは弱くないよ。だから安心して」
「ソラ君…」
「ソラさん…わかりました!京子ちゃん、とりあえず今は逃げましょう!!ツナさんたちならきっと大丈夫です!!」
「……うん、わかった!ツナくん、頑張って…!」
そういって走りだした彼女たちの背中を見ながらそのたくましさに苦笑が漏れる。やはり彼女たちは強い。たぶん、根本的な精神の強さは此処に居る誰よりも強いのではないだろうか。そんなこと、とうの昔に知っていたことなのに改めて思い知らさせた気がした。
そして、その日から沢田たちが学校を休むようになり、ついにリング争奪戦へと時が回りだしたことを自覚せざる負えなかった。
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