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骸side

「嬉しそうですね」

アジトである建物に入ると問いかけてきた千種の言葉に骸は小さく笑みを浮かべた。

「実際に対面してみて呆気に取られてるんですよ」
「え?」
「神の采配と呼ばれ、人を見ぬく力に長けているボンゴレ9代目が後継者に選んだのは、僕の予想を遥かに超えて弱く小さな男だった」

そう言って思い出すのは世界の闇をまったく知らない瞳を不安げに揺らす少年。
今まで幸せな世界に浸ってきたのが手を取るように解かりやすく、かのボンゴレ10代目候補としてはあまりにも不釣り合いだった。

「…何なんだろうね、彼は。まぁ、どちらにせよアルコバレーノの手の内はすぐに見れますよ。彼らの手には負えないでしょうからね」

いくらアルコバレーノがいるからといって所詮あちらは寄せ集めの素人集団。スモーキングボブや毒サソリがいてもその程度の戦力でランチアに敵うはずがない。
たとえ彼を突破してもその後の勝敗は目に見えている。
作戦通りボンゴレ10代目の身体を手に入れた後はどうしようか。マフィアを殲滅するための世界大戦はまだ早い。
あくまで候補であって確定しているわけではないゆえに、あの体で土台も作らなくてはいけないしあちこちに手回しも必要だ。復讐者への警戒も怠れない今、迂闊に動くのは危険…逆を言えば世界大戦さえ起こしてしまえばこちらの物だ。
世界は表と裏が同時に混乱し地獄と化す。マフィアどころか多くの一般人も巻き込まれるだろうが知ったこっちゃない。一番憎むべき相手はマフィアであるだけで平和ボケしている表の世界の住民を守る義理もない。

「あぁ、でも…」

ふと脳裏に浮かんだのはここ最近交流をしている不思議な少年。
本人は平凡だと言い張っているがただの一般人には見えず、かといって裏の住人というわけでもない。マフィア狩りという裏の世界に携わってきたからこそ、彼は表の住人だと確信があった。
一般人でもなく、裏の住人でもない。そんな怪しい人物に普通なら近づかないがどうもあの少年には警戒心が持てないのだ。正体を暴いてやろうと行くたびにチョコと紅茶を用意して穏やかに笑う彼を見るとその気が失せてしまう。
…もし、彼が今僕がしていることを知ったらどうするだろうか。怒るか、軽蔑するか、それとも――
「ベルギーのチョコ巡りには行きたいですねぇ…」
「…?骸様?」
「いえ、なんでもありませよ」

所詮、夢物語でしかない。今大切なのはこの作戦を成功させることだけだ。
骸はそう自分に言い聞かせ、前を見据えると怪しく光る赤い目を細めた。


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