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ピッ…ピッ…という音が響く中、酸素マスクを付けられた隼人が死んだように眠っていた。
沢田たちは隼人の容体を詳しく聞いているようで部屋を出ており、この部屋には空と隼人だけだ。
自分がもう少し早くついていればここまでの重傷を負うことはなかったかもしれない。
了平さんの時といい、何が記憶だ。肝心なところを覚えてないばかりか友達一人守れやしないではないか。
膝の上で握りしめた拳が小さく震えるも自分の目にはそれすら滑稽な光景に見えた。
保健室の壁に寄りかかり意識のない隼人を見つめる。

「ごめんな…隼人…」

ぽつりと呟いた謝罪も誰の耳にも届きはしない。届いたところでその言葉に込められた意味を誰一人理解できないだろう。
そのままぼんやりと眺めていると部屋の外がざわついていることに気が付いた。
どうしたんだろうと立ち上がり部屋のドアノブに手をかけようとすると勝手にドアが開いた。

「どうして隼人が入院してるのが此処なのよ!」
「ちょっ、ビアンキ落ち着いて!!」
「ビアンキちゅあーん!!!」
「うっさい!!」
「ふべらッ」

どうやら外のざわつきはビアンキが来たからだったらしく、ビアンキの持った毒々しい差し入れに沢田が青い顔をして止めている。
シャマルはビアンキにちょっかいを出しすがすがしいまでにボコられていた。

「隼人の看病は私がするわ!!隼人も私の料理を食べればすぐに治るはずよ!!」
「そんなことしたら治るものも治らないって!!」
「何を根拠にそんなことを!!って……誰よあなた」

いや、ポイズンクッキング食べたら普通死んじゃうから。なんて心の中でつっこんでいたらビアンキにガン見されていた。右手に持ったポイズンクッキングが相変わらず毒々しいですね。

「隼人の友達の天宮空っていいます。えっと…隼人のお姉さんですか?」
「あぁ、あなたが空ね。隼人から聞いてるわ。それにしてもよく私が隼人の姉だって分かったわね」

よく驚かれるのに。とただ純粋に驚いているようでこちらを見る目に敵意はない。それにしてもビアンキが俺のことを知っていたのには驚いた。隼人から聞いてるって…何話したんだろ?
「パッと見はわかりにくいですけどよく見れば顔立ちとか似てますし、母親にしては若いと思ったのでお姉さんかな?…と」
「そう」

さすがに前世の記憶ですとは言えなかった。それに隼人とビアンキは髪の色とかの違いから一見分かりにくいけど顔立ちとか一人に一途なところ(ビアンキはリボーンloveで隼人は沢田命なとこ)とか結構性格も似ている所がある。
俺の似ているという言葉が嬉しかったのか小さく頬を緩ませてるのが分かった。

「隼人のことを見ていてくれたみたいね。ありがとう」
「いえ、大切な友達ですから当たり前です」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。ここは私が変わるから、あなたは休んでなさい」
「あ、はい」

言っている言葉は本心だろうけど、俺をこの部屋から出そうとしているビアンキの糸に気づき大人しく従う。
おそらくこれからあの部屋でこの事件の真相について話し合うのだろう。その話を聞かせまいとするビアンキの心遣いにそっと感謝の念を送っておく。
邪魔にならないようにゆっくり戸を閉めると目の前にリボーンが立って居た。

「ビアンキに上手く追い出されたな」
「リボーン…」
「獄寺のことは礼を言うぞ。あのままだったらちょっとヤバかったからな」
「あんまり役に立たなかったけどね」

俺が行かなくても山本が追い付いていたはずだ。

「そう落ち込むな。自分ばっか責めても獄寺はよくならねぇ」
「そんなこと分かってるよ!!」

分かってるけど…

「疲れただろ。今日はもう帰れ」
「リボーン…!」

それは、俺はもうこの後の骸討伐隊には入れないと暗に言っているようなものだ。
元から行こうとは思っていなかったがこう真っ向から言われると結構キツイものがある。

「…どうして…」

どうしてリボーンは俺を誘わない?今は少しでも人手が欲しいはずだ。自分が掟で出せない上、死ぬ気弾も一発しかない状況で戦力のある人材を一人でも多く仲間に入れて骸という最悪の脱獄犯たちに立ち向かう戦力が欲しいはずなのに…。
確かに俺はリボーンの前で戦ったことがない。あるとしたらコーヒーを入れて手作りのお菓子をあげたりしたぐらいだ。でもきっとリボーンは見抜いてる。すべての力は知らなくても、今の戦力に入れるぐらいは強いということを。
それは感でしかないけど、感だからこそ確信できる。友達の隼人が襲われた。骸の討伐隊に入る理由は十分な筈だ。
だからこそ分からない。骸と戦わないですむ俺にとっては最高の状況なのに…こんなにも、胸が苦しい。

「ソラ」

俺の名前だけを呼び、まっすぐ見つめてくる。黒曜石のような真っ黒な瞳が何かを訴えるように、あるいは諭すように俺の瞳を覗き込むだけで何も言わない。

「……ごめんな。リボーンたちの言う通り今日はもう帰るよ。俺が居ても邪魔みたいだし…隼人のことよろしくな」

全てを見透かされそうな瞳から逃げるように目をそらし踵を返す。
後ろからの視線が痛かったが今はこの場から一秒でも早く逃げ出したかった。リボーンの視線も、自分の思考も、すべてを掻き消すように走りだした。


この場から逃げるように去っていった空の後ろ姿をじっと見つめていたリボーンは姿が見えなくなると小さく呟く。

「…ソラ、自分から行こうと思ってない奴が無理やり行っても、ファミリーを危険な目にあわせるだけだぞ」

お前が何に怯えてるのか知らねぇがさっさと気付け、ダメソラ。


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[mokuji]



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