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どこまでも広がっていそうな大空の下、辺り一面の草原が穏やかな風に揺れている。
よく見ると広々とした草原の真ん中でぽつんと白いテーブルが置いてあり、二人の少年が優雅にお茶をしていた。
一見和やかにティータイムを楽しんでいる二人だが、最近よく此処に来るようなった少年―六道骸―は困惑していた。

「空君……前々から思っていたのですが、君は何者なんですか?」
「ん?何者って、天宮空でただの平々凡々な中学生だけど」
「ベルギーの超高級チョコの味を知っている平々凡々な中学生なんて聞いたことありませんよ!!」

ガタンと音を立てながら立ち上がる骸の視線の先にはカゴいっぱいに詰められたベルギー産のチョコ。しかも超高級という普通の一般家庭ではお目にかかることのないチョコばかりだ。

「前に知り合いにもらった」
「なんですかそれ羨ましい」

此処は空の夢の世界。ならばなんでもできるのでは?と思いついたのがきっかけだ。
今座っている椅子やテーブルも空の想像力で作られている。
もちろんこのチョコも空の想像によってできているものであり、実際にあるわけではないが食べたら味がするということは味を覚えるくらい食べたことがあるということだ。

「まさか生きてるうちにこんな高級チョコを食べる日が来るとは思いませんでしたよ。いつかは食べてやろうと思ってはいたんですが」
「俺の想像だから本物じゃないけどね」
「そうですが…このチョコといい世界といい、どこが平々凡々だが。君がそうなら世界中の人間が平凡以下ですよ」
「わかった。チョコよりもパイナップルがいいのか」
「ごめんなさいチョコがいいです」

前に一度大量のパイナップルを出したらすっごく微妙な顔をされた。
そんなに気にするんだったら髪型変えればいいのに…いや、ナッポーじゃない骸は骸じゃないか。

「いまなんか失礼なこと思いませんでした?」
「全然」

不服そうな顔をしたまま紅茶を飲む骸。ちなみにその紅茶も超高級である。
もちろん紅茶もチョコも綱吉だったころ食べていたものだ。嘘は言ってないしどうせ食べるなら美味しいやつが食べたい。

「あ、そうそう。今日は君に言うことがあったんです」
「そうなの?チョコが目当てだと思ってた」

それもそうですけど違います。とカチャリと紅茶を置きながら真剣なまなざしでこちらも見てきた。
チョコ目当てなのは否定しなかったぞ此奴。

「実は近々忙しくなる予定がありまして…しばらく此処に来れそうにないんですよね」
「あ、そうなんだ。…で?」
「軽いですね、君。もっとこう、えぇ!!とか、寂しくなるな…とかないんですか」
「えーそうなのー?ちょーさみしー」
「無理に言わなくていいですよ!!」

真顔で棒読みとかどんな暴挙ですか!とチョコを口に詰め込みながら文句を言う骸。
そんな骸を横目で見ながら空はもうそんな時期か…と紅茶に視線を落とした。
記憶にある時期的にも骸の予定というのは十中八九ボンゴレ10代目候補の乗っ取りのことだろう。あの事件は綱吉にとってもいろんな意味で記憶に強く残っていた。
グローブや超モードもこのころからだったが、この事件がなければグローブどころか骸が自分の霧の守護者になることもなかっただろう。
そう考えたら面白いめぐりあわせだなと思った。皮肉なことにこの事件がなければ自分は成長しなかっただろう。たとえ他のことでグローブを手に入れることができても同じ成長はしなかっただろうし、自分が10代目候補ということだけで周りにも被害がでる可能性があるという危機感を初めて感じたきっかけでもあったのだ。
このままいけば骸はあの冷たい牢獄に一人閉じ込められてしまう。自業自得だしいつかは出てこれると知っていても複雑な心境だ。

「それにしても……」

気持ちをごまかすように紅茶を喉に流し込みながらもチラリと骸を盗み見る。
しばらく来れないからかこれでもかとチョコを無心で食べ続けている骸。綱吉の時の出会いはそれこそ最悪でしかなかったが、空としてこの世界で出会ってからはいろんな意味でイメージがガラガラと音を立てて崩れている。
あれ?このころの骸ってもっと殺伐としてたよね?と内心首を傾げたのも少なくない。綱吉だった時はいつも皮肉を言われてばっかだったしデレてくれるようになったのは随分あとだったためか、今では当たり前になったバカみたいなやり取りをしてからあの殺伐とした雰囲気を出されても恐怖どころか爆笑しそうだ。いや、絶対する。
そんな光景を思い浮かべながら笑いそうになるのを堪え、もう一度骸を見る。
骸はチョコを喉に詰まらせたのかせき込んでいた。

「うん、ないな」

自分が空として此処に存在してる時点で記憶と同じようにいく保証はどこにもなく、沢田たちが負ける可能性も無きにしも非ずと考えていたが、ナッポー型のチョコをものすごく微妙な顔で、でもしっかりと食べていた骸を思い出すとそんな心配すらもどこかに吹っ飛んでしまった。むしろこんな骸に負けるなんてなんか嫌だ。

「何かいいましたか?」
「いや、何も」

不思議そうにこちらを見ている骸を見みていると復讐なんてやめちまえと言いたくなる。乗っ取りなんて無駄だと。でも、それは俺の言っていいことではない。
よくこの世界に来る骸だがマフィアや殺しなど真っ暗な世界の話なんて出したことない。骸がこうやって俺とバカなやり取りをしてくれるのも俺を何も知らない表の人間だと思っているからだろう。もちろん裏の世界に足を突っ込むつもりもないし天宮空は正真正銘の一般人だ。そんな俺から隠している作戦をベラベラしゃべられて挙句の果てにやめろなんぞ言われたら怒るどころか失望した目で俺を見て、何も言わず二度と会いに来ることはないだろう。
骸にそんな思いをして欲しくないからと偽善を掲げながら、結局は自分のためなのだ。
何も知らない一般人として骸の友達で居たい。そんな身勝手な願いのために冷たい牢獄へと踏み出している骸を止めず、何も知らないフリをして笑い続ける。
我ながら酷い奴だと嘲笑うが止めようとしない時点で同罪だ。本気で止めようと思えば止められるだろうにそれをしない。俺は…

「空君?大丈夫ですか?」

心配そうに尋ねてくる骸の声にはっと我に帰った。いけない、いつの間にか考え込んでたらしい。
考えてたことを頭の隅に追いやると心配そうにこちらを覗き込んでくる骸に安心させるように笑みを浮かべる。

「あ、うん。大丈夫大丈夫!ちょっと考え事してただけだから」
「そうですか…ならいいですけど」

納得しないような顔をしながらも引いてくれた骸に感謝する。
とりあえずあーだこーだ考え込んでも仕方がない。知らないままでいると決めたのは自分なのだから自分はそれを貫き通すだけだ。

「それにしてもそんなにチョコばっか食べてたら太るぞ?」
「これは君の想像のチョコだから太りませんよ」

現実でも12ダースは軽いです。と大真面目に返してくる。

「いや、12ダースは食べ過ぎだから」

これからのことよりもこの友人が将来糖尿病にならないか心配になってきた。

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[mokuji]



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