空とクリスマス

今日はクリスマスイブ。
空は凪や隼人、チビたちなどみんなへのクリスマスプレゼントを買うために商店街へと来ていた。

「ジングルベール、ジングルベール、鈴がーなるー♪」

日本人は宗教関係なくイベントごとが好きだ。仏教もキリストも関係なく24、25日にはクリスマスパーティーをし、正月には神社へ初詣に行く。当然並盛も他の町と変わらず…いや、多分他の町以上にライトアップされていた。広場には巨大なクリスマスツリーが置かれ、商店街もライトアップされる。これが本場並で並盛の一つの名物となっているのだ。
この背景にはもちろん我が町の最強で最恐な風紀委員長、雲雀さんの影があると知ったのは「前」イタリアのボンゴレ本部でクリスマスパーティーをしたときだ。なんでも、並盛を飾り付けるのはいいらしい。「愛する並盛をライトアップさせるのは全く問題ないが、人が群れるのは許さない」となんとも雲雀さんらしい考えだった。

「森にー林に―響きなが…あれ?あんなところに店なんてあったっけ…?」

街の飾りつけに目を奪われていると、視界に一つの店が入り込んだ。
他の店はこれでもかとクリスマスに乗っかるように飾りつけをしているのに対して特にこれといって何もしていないこじんまりとした店。なのにこの商店街から浮くどころか上手く馴染んでいた。
「前」の記憶をたどってもこんな店があったか分からない。
不思議だと思いながら何かに惹かれるような感じがし、気が付くと店の前まで歩いていた。

「これって…開いてるよな?」

扉にOPENと書かれたプレートがかかっているのでそっと扉を押してみる。
ギィと小さく音を立てながら開かれた扉の向こうには多種多様な小物やアクセサリーなどが置いてあるのが見えた。

「おじゃましまーす…」

恐る恐る中に入ると見た目よりも広い部屋に驚く。アンティークはさることながら、和物やどこの国の物かもわからない怪しげな物まで置いてある。
ある意味不思議な空間になっているが何故か違和感は感じず居心地がいい。

「すげー…」

思わず感嘆の声が漏れるがふと店の一角に目が留まった。
腕輪やペンダント、アクセサリーが置かれているコーナーにぽつんと置かれた木箱。
何かに引き寄せられるかのように手に取ると蓋をゆっくりと開けた。

「…指輪だ」

ごつい、と言っていいのか分からないが昔のボンゴレリングぐらいの大きさだろうか?中心には丸い石がはめ込まれ存在を主張していた。
透明度の高い飴色の石に自分の顔が映り込む。

「アンバー…かな?ここまで不純物が混ざってないのは珍しい…」

アンバーとは和名で琥珀という宝石だ。よく虫入りの物は値段が高いと言われるが個人的には虫入りは好きではない。
「前」リボーンに叩き込まれた知識を引っ張りだしながら眺めていると背後に影が映った。

「おや?お客さんかな…?」
「…っ!?は、はい!」

声をかけられ慌てて後ろを向くと白いひげを生やしメガネをかけた老人がいた。
この店の人らしく、老人は空をじぃと見つめると大きく目を見開いた。

「…これは本当に珍しいお客さんが来たものだ…それにその指輪、君が見つけたのかい?」
「あ、はい。あの、見つけたというかそこに置いてあって…すみません」

老人の視線が指輪に向かっているのが分かり、慌てて元の場所に戻そうとするとその手はそっと制止された。

「いや、そのままで構わんよ。それにしても、どうしてそれを?他にもいっぱいあっただろうに…」

そう尋ねる老人の視線は後ろの宝石たちに移る。その視線を追うように空も目線をやった。
確かに、そこには色とりどりのたくさんの宝石やアクセサリーがある。どれも一目で高級なものだと分かるし中には年代物と思われるものもある。きっとこれを見れば宝石に興味がない人も立ち止まって魅入ってしまうだろう。

「……なんとなくっていうか、凄く気になって…」
「なるほど…」

「珍しいこともあるもんだ…」と老人が嬉しそうに笑みを綻ばすとゆっくりと近づいて宝石たちを撫でる。

「…物にはな、魂が宿ってるんじゃよ。その中でも宝石たちは我が強い。質がいいものほど人々を魅了させ、幸せにしたり不幸にする。随分ときまぐれでな、手にする相手を選んどるんじゃ。」
「はぁ…」

宝石が持つものを選ぶという話は意外とある。よく呪いのペンダントなどその手の話は「前」にも聞いていたが自分にとって一番身近なのはボンゴレリングだろう。他の宝石やアクセサリーは知らないが、ボンゴレリングは血がないと持つことは許させない。まさに呪いの指輪だ。

「君がその指輪を手に取ったのも何かの縁じゃろう…よかったら持って行きなさい。」
「えぇ!?こんな高そうなものいただけません!!」
「いいんじゃよ。その方がきっとその指輪も喜ぶ。…使い方を間違えないでいてくれるだけで十分じゃ」
「え…?」

老人の意味ありげな言葉に曰くつきな指輪なのではなかろうかと思わず指輪を見つめるが特に嫌なものは感じない。

「はっはっはっ、そんなに怯えんでも大丈夫。別に呪いの指輪とかではないし寧ろその逆じゃ。」
「…俺、声に出してました?」
「この年にもなると若者の気持ちぐらい分かるもんじゃよ。ちょっとした老人の頼みだと思っておくれ」
「はい…」

優しい声とは裏腹に何か力強いものを感じ思わずうなずいてしまう。すると、老人は嬉しそうに指輪を撫でると言い聞かせるように呟く。

「物を正しく使うも、悪く使うも人次第。君が、君の大切な“もの”のために正しく使えることを祈っているよ」

そう言ってまっすぐ空を見た後、愛おしそうに指輪を見つめる老人に何か言おうとするも言葉が見つからない。

「おじいさん…」
「ん?」
「きっと…この指輪は『ありがとう』って言ってるんだと思います。『ずっと、大切に持っていてくれてありがとう』って……あれ?急に俺何言ってんだろ…?す、すみません!!」

ふと思ったことを呟いてしまったがこれではただの変な人だ。何言ってんだ自分!!と青ざめるも老人はきょとんと驚き何かを呑み込むと嬉しそうに頬を綻ばした。

「そうか…ありがとう」

そう呟いたまま何も言わなくなった老人に何か言わないと、となぜか焦ってしまいふと視界に入った物を指さして言った。

「あ、あの、これください!!」









あの後、あの店でいくつか物を買うと老人にお礼を言って外を出た。
店でもらった指輪は木箱ごと空のポケットに入っている。さすがに指につけるわけにはいかず、後で首に掛けれるようにチェーンを買わなくては、と脳内の買い物リストに付け加えた。
思いもよらない所でみんなへのクリスマスプレゼントも買うことができ、空は笑みを浮かべる。

沢田、山本、獄寺、雲雀さん、了平さん、ランボ、凪、骸にはそれぞれの色の石が付いたストラップを。

京子ちゃんやハル、イーピンには可愛い髪飾り。

ふぅ太にはスノードーム。さすがに豆は売っていなかったからリボーンへのプレゼントは別の店でお気に入りのコーヒー豆を買った。

沢田や凪たちはともかく、夢でしか合わない骸にはどうやって渡そうと考えていると、なぜか「前」のときサンタからのプレゼントが『立派なマフィアのドンになる為には』と書かれた広辞苑並に分厚い本に変わっていたことを思い出す。

(そういやあの後、リボーンのやつに本に書かれていること無理やりやらされたっけ…)

しかもこの寒い雪の中、パンツ一丁でだ。次の日風邪を引いたのも仕方ないだろう。
プレゼントを渡そうと沢田家に訪れると二階の部屋が爆発し、沢田の悲鳴が聞こえた。
インターホンを押すか迷ったが、プレゼントをポストの中にいれると昔の自分の悲鳴をBGMにそっと手を合わせる。

「まぁ…アレだ……。頑張れ、俺」

「安心しろ、死にはしない」と説得力はあるが無責任なエールを送りながら、他の人にプレゼントを渡すべく沢田家を後にした。


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[mokuji]



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