空と霧



ぽかぽかとした日差しに気持ちのいい風。
のんびりとした空気の中、猫缶と麦チョコが入った袋を片手に隣町の黒曜にある公園に来ていた。

「おまたせ、凪」
「空…!」

紫色の髪をなびかせながらパタパタと音を立てて近寄ってくる少女はかつて己の霧の守護者の片割れだったクロームこと凪。
前に黒曜のスーパーまで買い物に行ったとき、猫を助けようとして車に轢かれそうになったのを助けたのがきっかけだった。
本当にただの偶然だったのだが助けることができてよかったと改めて思う。
記憶の中の少女は片目と内臓を事故で失い、幻術でその命を繋ぎとめていたがそのせいで危険な状態になったのも少なくはなかった。目の前にいる少女は片目を失うこともなく内臓も無事だ。

「はい、猫缶。あと麦チョコの差し入れ」
「麦チョコ…!ありがとう空!」

麦チョコと猫缶を大事そうに胸に抱えふわりと微笑む凪。
目的であった猫は二人の気配を感じたのかいつの間にか姿を現すと近寄ってきた。

「にゃあ〜」
「あ、ちょっと待っててね。すぐ用意するから」

凪がガサゴソと用意をする間、優しく猫の頭を撫でる。猫も悪い気はしないようでゴロゴロと喉を鳴らしながらすり寄ってくる。
この猫は凪が助けようとした猫で、一緒に助けることができ、その事故の後二人で会ってはこうやって餌をあげているのだ。

「はい、どうぞ」

コトリと置かれた餌を食べ始める猫。助けた当初は痩せ細っていたが今は健康的な体になっている。
その隣で凪も麦チョコを美味しそうに頬ばっていた。

「持ってきた俺が言うのもなんだけど麦チョコばっかりじゃなくてちゃんとご飯も食べなきゃダメだよ、凪」
「…わかってる」
「ならいいけど…あ、そうだ!凪さえよかったら今度うちに食べにおいでよ」
「いいの…?」
「もちろん。凪なら大歓迎だよ。母さんも凪に会いたがってたし何時でもおいで」
「うん…!」

ほんのりと頬を染め微笑む凪を見ながらつられるように俺も笑った。今日はいい夢が見られそうだ。








「おや、こんにちは」
「……パイナップル?」
「誰がパイナップルですか!初対面の人に失礼ですよ、あなた」
「いや、今日夕飯のデザートにパイナップルを食べたから夢に出てきたのかと」

髪型ですか!?この髪型のせいなんですか!?と騒ぐ骸。髪型が原因って、よく解かってるじゃないか。

「…で、ナッポーさんは俺になんかよう?」
「ナッポーじゃなくて六道骸です!!……いえ、精神世界を散歩していたら何か惹かれるような感じがして…気が付いたら此処に迷い込んでいたようです」

何故か懐かしい…そんな風に思ったんです。と言いながらあたりを見渡す骸。
辺り一面の草原が広がり、風に揺れている。上を見上げればすべてを包み込むような大空が広がっていた。

「あなたの精神世界は不思議ですね。なぜかとても心地がいい」
「そうなのか?」
「えぇ、今まで色んな人たちの精神世界を見てきましたがこんなに居心地のいい世界は初めてですよ」

それに、どうやらあなたとは波長が合うようですし。と呟くと骸の身体がだんだん透け始めた。

「おや…そろそろ時間のようですね。…Arrivederci」

クフフフフという独特な笑い声と共に骸の姿は消え、同時に目を覚ました。

「……相変わらず掴めない奴だったな。骸」

さすが霧。でも元気そうで何よりだ。
もしまた会えたらその時はパイナップルとチョコを用意してあげよう。

Aspetto un giorno per vedere di nuovo(また会える日を楽しみにしているよ)


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[mokuji]



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