星屑星明かり | ナノ





星屑星明かり











有川の家。

いつもはその前を通り過ぎるだけだった。

けれど今、私はその家の中にいる。










リビングに通された私は、目の前の光景に固まった。
そこにはまるで芸能人じゃないかと思えるような、煌びやかな人たち。
けれど、その人たちはどこかで見たことがある。
一体どこで見たんだろう……?
これだけインパクトが強ければ、絶対覚えてるはずなんだけど。
必死になって、どこで見たかを思い出そうとしている私に、赤い髪の少年が近付いた。


「へぇ、望美の友人、ね。初めまして、姫君。よかったら、その麗しい唇で、オレに名前を囁いてくれると嬉しいんだけど」


そのまま私の手を取り、その甲に軽くキス。
まるで、おとぎ話の王子様のような行動に、不覚にも顔が赤くなるのを感じた。
だって、素でこんなことやる男の子って、見たことがない。


「ヒノエくん!」

「ヒノエ。ここはあっちの世界と違うんだ、そういうことは簡単にするなよな」

「全く、お前等の世界ってそこらへんが面倒だよな」


望美と有川弟が赤い髪の少年に注意すると、肩を竦めながらつまらなそうに唇を尖らせた。
随分と仲がいい。
私が入り込めないような雰囲気は、間に大きな壁を挟んでいるかのよう。
それにしても、その会話に違和感を感じる。



あっちの世界とか、お前たちの世界って、何?



首を傾げている私の頭に、ふわりと大きな手が乗せられる。
一体誰が、と思ったけど、くしゃりと髪を撫でるての感覚で、誰かわかった。


有川。


外見は変わっているけど、手の温かさとか、行動は全然変わってない。
やっぱり、有川は有川だ。


「今からちゃんと説明、するからさ」


そう言って、苦笑いを浮かべる有川の顔が、どこか切なかった。
何て言ったらいいんだろう。
例えるなら、大切な何かを失ったような。



そんな、感じ。















ソファを勧められて座れば、お茶が出される。
持ってきた人の良さそうな男の人に礼を言えば、人懐こい笑みを返される。
私の正面に座ったのは、望美と有川。
そして、なぜかリビングにいた人たちは、そこから移動する気配がない。
普通なら、他の人がいないところで話すと思うけど。
何か思うところがあるんだろうか?

それとも、この人たちも何か関係している?

そういえば、有川は休みに入る前、こんなに大勢の来客があるとは言わなかった。
話す会話もいつも通り。
それに、こんな美形だらけだ。
もし来るとわかっていたら、望美が黙っていないはずがない。
でも、私は二人が話していたときは、会話に参加していなかった。
だから何を話していたのかは知らない。



それが少し、悔やまれた。



望美が話してくれたことは、私の頭を軽くオーバーヒートさせてくれた。
この現代世界において、有り得ないような非現実的な話。
タイムトリップなんて、漫画や小説、ゲームの中だけだと思ってた。
でも、目の前の望美の顔は真剣そのもの。
それに、今の有川の姿を見たら、嫌でも納得せずにはいられない。
それにしても。


「……有り得ない」


頭を抱えて、思わず呟いていた。


源義経と武蔵坊弁慶。


歴史的にも有名な彼ら。
弁慶なんて、2メートルもある大男のはずじゃなかっただろうか。
それなのに。
紹介された武蔵坊弁慶は、女性と言っても無理がないほど、綺麗な容姿だった。
それ以外にも、名のある人たちだけど、どれもこれも、想像とは全く違う。
そして何より。


「有川が平家の将、ね」

「一応、な。そうなってる」


もう、どこから突っ込んでいいのかわからない。
いっそのこと、現実逃避できたらどれだけ楽だろうか。
そして、ようやく思い出した。



どこかで見たことがあると思った彼らは、日替わりで学校に望美を迎えに来ていたっけ。



クラスどころか、学校中の女子生徒が、そんな彼らに黄色い声を上げ、一緒に帰る望美を羨ましがっていた。
まぁ、例外もいるけどね。
その中の一人が私。



有川のことが頭から離れなくて、あまり興味がなかったのが事実。



実際、近くで彼らを見ても、心がときめくとまでは行かなかった。
赤い髪の少年は、ときめくというよりも、驚いた、が近い。
でも、みんなが言うように、確かに美形。
その口から出てくる言葉とか態度も、女の子に受けがいいだろう。
性格には、ちょっと難あり。
彼の彼女になる人は、色々と大変そうだ。





彼女。





そこで、私ははた、とあることを思いだした。
目だけで部屋を眺めれば、望美の後ろに控えるように、先程会った金髪の外人さん。
今も、望美を見る視線が暖かい。



あの人も、望美のことが好きなんだ。



誰にでも好かれる望美だけど、それが時として酷く羨ましく、そして、憎い。
いっそのこと、早く身を固めてくれ、と思う人たちは後を絶たないはずだ。


男女ともに。


私だってそう。
望美が早く誰かと付き合ってくれれば、この想いをどうにかすることが出来るのに。


いつまでも中途半端なままじゃ、周りが可哀相だよ。


私だけじゃない。
有川も。


さっきの様子を見る限り、望美はあの人が好きなんだろう。
そして、あの人も望美のことを想っている。

お互い気持ちが通じているのだから、既に付き合っているのだろうか?

それともまだ?

その判断に悩むのは、周りにいる人たちのせい。
何とはなしに、態度を見ていると、誰もが望美に何かしらの感情を持っているのは、すぐにわかる。
その想いを告げるでもなく、ただ胸に抱くということは、お互いに牽制し合っているのだろうか?





わからない。





何がどうなっているの。
この部屋にいる人たちは、みんな望美を見ている。


その望美は、誰を見ている?


ベクトルは、誰に向かっている?


それさえ理解できれば、私はすぐにでも楽になれるのに。
胸にある消化できないわだかまりを、いつまでも燻らせておかなくてすむのに。


「すぐにでも理解しろってのは、難しいよな」


小さく笑いながら言う有川に、私は想わず顔を上げた。
多分、私が理解に苦しんでいたと想ったのだろう。
考えていたのは、全く違うことだったのだけど。


「とりあえず、今日はもう遅いから、家まで送ってってやるよ」


言いながら、立ち上がった有川に、私は慌てて手を振った。
申し出は有り難いけど、二人きりになるには、心の準備が出来てない。


「大丈夫。一人で帰れるよ」

「馬鹿、こういうときくらい甘えろって」


な?と言いながら、有川は私の言葉を待たずに玄関へと向かう。
私はその場に立ち上がり、ぺこりと頭を下げてから、有川の後を追った。
人の話を聞かないところは、前も今も、あまり変わらないみたい。



玄関で靴を履く彼の背中を見て、思わず笑みが零れた。





「あれが望美が言ってた子なのね?」

「そうだよ、朔。可愛いでしょ?」

「確かに、行動するよりも先に、頭で考える人みたいですね」

「……あの姫君も、アンタにだけは言われたくないだろうね」





私が去ったとのリビングで、そんな会話があったなんて、私にはわからなかった。





有川の家から私の家までは、大体三十分くらいの距離。
二人で並んで歩いている物の、会話は限りなく、ゼロ。



私は外見が変わってしまった有川に、

有川は久し振りに会う私に、



何を話していいのか、話題が見付からなかった。
黙って歩いているだけでも、限られた時間は減っていく。
次に会えるのは、いつになるかわからない。
学校が始まっても、有川の姿がそのままなら、彼は学校へ来ないだろう。
何か話さなくては。
そう思えば思うほど、頭が混乱して何を話したらいいかわからなくなる。


「なぁ、松浦」

「何?」


けれど、先に言葉を作ったのは有川。
その場に止まってしまった彼に、数歩進んだ私も止まる。
振り返れば、何から話したらいいか悩んでいるような姿が見える。


「あの、さ。お前、望美の好きな奴、わかったか?」


知ってるか?ではなく、わかったか?と聞いたことで、やはり彼女の想い人はあの中にいたのだとわかる。
でも、どうして有川が私にそれを聞くんだろうね。


自分が傷つくとわかっていて、確認したいの?


自分の想像じゃなく、第三者の目から見た意見を聞きたいの?


それほどまでに、自分の考えを否定したいの?










「私はあの金髪の人だと思うんだけど」










そう言うと、有川は「だよな」と小さく呟いた。










漆、「届かなくてもいい」なんて嘘
2007/10/27




 
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