星屑星明かり | ナノ





星屑星明かり






『では、私たちはこれで。兄上、参りましょう』

『ああ、わかった』

『あの、有川に会わなくていいんですか?』

『私たちは、あの方には会えないんです』

『でもっ!』

『なら、言伝を頼んでも構いませんか?』

『俺たちのことは気にするな……と』

『あなたの幸せを、私たちは心より願っていますと、そう伝えて下さい』

『わかりました。必ず、伝えます』

『ありがとうございます。そうだ、お嬢さん、あなたの名前を伺ってもよろしいですか?』

『さくら。松浦、さくらです』

『お前が……松浦、か』

『?』

『気にするな』

『さくらさん、あなたにはこれを。聖なる夜の贈り物として、受け取ってもらえますか?』

『これ、わたしがもらってもいいんですか?』

『あなただから、もらって欲しいんです』

『ありがとうございます』

『俺のもやろう』

『はぁ……』

『それでは、今度こそお別れです』

『じゃぁ、な……』



クリスマスの不思議な出会い。
それは、ほんの僅かな時間だったけど、なぜか心が暖かかった。










あのとき会った二人の銀髪の男性。
私がもらったのは、一本の赤と白のバラ。





ブルーのスーツの人がくれたのは白いバラ。
丁寧な言葉遣いと、優しい物腰で誠実っぽい感じ。

ワインレッドのスーツの人は、赤いバラ。
どこか物憂げで、傲慢な感じがした。
そして、危険な感じ。





二本のバラは、あの二人を象徴するかのように、綺麗に花を咲かせていた。
そして、帰ってきてからあの二人の名前を聞き忘れたことに気付く。

せっかく伝言を伝えても、名前がわからなければ意味がない。

でも、あの二人は有川のことを知っていたから、言えばわかるかな。
伝えるのは少し遅くなるけど、大丈夫だよね?
だって、今の有川家に行っても追い返されるだけ。
そうなると、冬休みが終わってからしか伝えられない。





早く伝えたい気持ちはあるけど、今有川に会うのは、怖い。





忘れようと思っているのに。

日に日に想いが募るなんて。

有川を知ってる二人に会ったせいかな?

それとも、クリスマスに馬鹿な願い事をしたせい?


『有川に会いたい』


なんて。
クリスマスが終わった今、その願いが叶わないことは知っている。
世間はもうお正月。
新しい年を迎えるのに、いつまでもこんな気持ちでいられない。
どうせなら、気持ちも新たに新年を迎えたい。





部活をしている友人に会いに学校へ。
そのついでに、有川弟のところへ行って、有川の様子を聞いた。
どうやら、前よりはましにはなったらしいが、まだ酷いらしい。

そこまで酷いなら、病院に行くなり、入院するなりすればいいのに。

私がそう言うと、有川弟は妙に慌ててそこまで酷くはない、と言ってきた。





ねぇ、矛盾してるの、わかってる?





本当に酷いなら、自宅で療養なんかじゃなく、病院に行った方が早いんだよ?
それなのに、それを言ったら慌ててそこまで酷くない、なんて。
ちょっとがっかり。
有川弟なら、嘘はつかないと思ったんだけどな。
そりゃもちろん、生きていく上で必要な嘘っていうのはあるけど。
幼馴染みがそろいもそろって私に嘘をつく、なんて、どういう了見なんだろう。





そんなに私に知られたくないこと?


私に、言えないこと?





考えても上手くまとまらない。
そもそも、私に知られちゃマズイことって、一体何?
親友、という位置にまでなったけど、お互いのプライベートにはあまり干渉してない。
だから、有川と望美が話してるとき、関係ない話なら振られるまでは会話に入らない。
もちろん、たわいのない話だったら別だけど。





あの日のことだって──。

望美と有川兄弟が消えたことも、詳しくは聞いてない。

次の日、望美に問い詰めてみたけど、彼女は曖昧にしか話してくれなかった。

しかも、彷徨ってる視線は嘘をついていることがバレバレで。

そんな風にされたら、普通は余計に気になるもんなんだよ?





そんなことをぼんやりと思っていたら、どこからか聞き覚えのある声。
声がした方を振り返れば、浜辺の方からやってくるクラスメート。


「あ、さくら!聞いて聞いてー」


私を見付けて、どこか嬉しそうに走ってくる友人に、何かいいことでもあったのかな?と思う。















「有川くんと望美がそこにいたよー。結構元気そうだったけど」















彼女の言葉を聞くなり、私はその場から駆け出していた。

どうして。どうして二人が一緒に浜辺にいるの?
有川が風邪を引いたなんていうのは、明らかに嘘だって知ってる。
別に、嘘をつかれたことが嫌なわけじゃない。





嫌なのは、嘘をついてまで私を避けるということ。





急いで浜辺に行けば、確かに望美の後ろ姿があった。
けど、一緒にいるのは本当に有川なんだろうか?


私がいつも目で追ってた背中。

それとは、違うような気がしてならない。


そっと二人に近付けば、やがて二人の会話が聞こえてくる。


「気付かれなくてホントに良かったよ」

「まぁな。けど、いい加減元の姿に戻らねぇと面倒だろ。このままじゃ学校にも行けねぇし」


何?


一体二人は何のことを言ってるの?


元の姿ってどういうこと?


それは、今の有川と関係してるの?


「どういう、こと……?」


私の言葉に、二人の足が止まる。
振り返った望美は、戸惑ったように隣の有川に視線を投げかける。
それにつられて私も有川を見た。





誰?





真っ先に思ったのは、それだった。
確かに、有川と言われれば面影はある。
でも、目の前にいるのは私の知ってる有川じゃない。
だって、明らかに高校生には見えない。



そう、強いて言うなら成人男性。



でも、おかしいよね?
有川は確かに私や望美と同じ、高校生だったはずだ。
それなのに、何週間か会わなかっただけで、ここまで成長ってするものなの。

そんな馬鹿なこと、あってたまるもんですか。

あぁ、だからか。
有川が学校を休んだのも、望美と有川弟が私に嘘をついていたのも。
そうだよね。こんなこと、普通に考えて有り得ないもん。
でも、知ってしまったら、理由が知りたい。



どうして成長してるのか。

どうして、黙っていたのか。



確かに驚きはしたけど、これくらいで友達止めるほど薄い友情なんか持ってないんだよ。


「あの、あのね、さくら」

「いい、望美。俺が説明する」

「将臣くん」


言いかけた望美を遮って、有川が一歩前に出た。
近くで見ると、違いは一目瞭然。
以前より落ち着いた感じは、大人って言葉がよく似合う。
それに、体つきもどこか変わった?
筋肉がついたっていうか、引き締まった感じがする。


「将臣くん、ここじゃ何だから、移動しない?」

「そう、だな。俺の家に行こうぜ。松浦も、いいよな?」

「うん」


話してもらえるなら、どこでだって構わなかった。
駅に行けば、さっきみたいに知り合いに会うかもしれないから、と私たちは歩いて有川の家まで向かった。



その間、何一つ会話はない。



久し振りに三人で帰るというのに、全然嬉しくない。


それは、有川が変わってしまったから?

それとも、お互いがお互いを意識しているから?


わからない。
何も。


「神子、帰ったのか」


有川の家に着くと、出迎えてくれたのは金髪の外人。
随分と身長が高い。
もしかしなくても、有川よりある。
それよりも「みこ」と言う言葉が気になった。

みこってあれだよね?
神社なんかにいる。
でも、一体誰のこと?


「先生っ!」


そう思っていると、横から望美が飛び出した。
その顔が嬉しそうに見えるのは、気のせいじゃないと思う。
まさか、ね。
でも、もしそうなら、自分にも望みはあるかも、と隣の有川を見る。
止めておけばよかったと思ったのは、そのとき。










切なそうな顔で望美を見る有川なんて、見たくなかった。





多分、あの人が望美の想い人。





有川は、いつから自分と同じ思いをしていたんだろうか。










陸、悦びと罪悪の渦
2007/10/20




 
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