ごちゃまぜ | ナノ
早朝。
ひっそりと、誰もいない勝浦の浜辺で動く朱。
「うん、これがいいな」
ポツリと呟いて手にしたのは、一つの貝殻。
日の光に翳してみれば、透けて、淡い桃色に光って見えた。
〜贈り物〜熊野本宮。
先日、別当である湛快が保護した少女の部屋の側で、それは起きていた。
部屋を訪れようとして廊下を歩いていると、目的の部屋から現れる一つの人影。
それが自分の苦手とする人物──弁慶──だとわかると、ヒノエは不機嫌そうに顔をしかめた。
彼はヒノエの側へやってくると、ピタリとその足を止め、自分よりも背の低い甥を見下ろす。
「何でアンタがここにいるんだよ」
「彼女の勉強を見ていたからに決まっているじゃないですか」
唇を尖らせて問えば、うっすらと笑みを浮かべたまま返される。
それが面白くなくてフン、と鼻を鳴らした。
「あっそ。で?オレに何か用?オレは姫君に用があるんだけど」
言外に邪魔だと匂わせれば、弁慶は数回瞬きしてから肩を竦めて見せた。
「おや、酷いですね。僕は彼女が言うから自分の部屋に戻ろうとしただけですよ?」
「どういう意味だよ」
訝しげに尋ねれば、弁慶は首だけを今来た部屋へ向けた。
「彼女は貴方が来るのを知っていたようですね」
その言葉にすっかり気をよくしたヒノエは、顎に手を当てながら満面の笑みを浮かべた。
「ふぅん。さすが、その神気は伊達じゃないって事か」
小さく呟いたそれに、今度は弁慶が問いかける。
確か、兄の湛快も似たようなことを言っていたような気がする。
「どういう意味ですか?」
「誰がアンタに教えるかってんだ」
思っていた通り、べ、と舌を出して見せる甥に深く溜息を吐く。
「相変わらず可愛くないですね」
昔はあんなに可愛かったのに、と呟けば、いつの話だよ!と返される。
「ヤローに可愛いって言われても嬉しくもないね。ほら、さっさと部屋に帰りなよ。ここから先はオレが姫君と一緒なんだから」
しっし、と手で追い払われて、失笑を浮かべる。
「はいはい、仕方ないですね。それでは、また明日。ヒノエも、彼女にあまり迷惑を掛けてはいけませんよ?」
襖越しに、少女に声を掛けてから再び歩き出す。
ヒノエとすれ違いざま、頭をポンポンと撫でてやれば、軽く手を払われる。
「誰がかけるかってんだ!」
弁慶を振り返り、その後ろ姿に一声。
振り返りもせずに手を振っている姿を見て、更に怒りが込み上げてくる。
「……全く」
一言呟いて、目的の部屋へ。
部屋の前で深呼吸。
ぽすぽすと襖を叩いて声を掛ける。
「姫君、ご機嫌はいかがかな?今日は姫君に贈り物を持ってきたんだ」
そう言って、懐から取り出したのは浜辺で見付けた貝殻。
今はコレくらいしか出来ないけれど、
いつか、
自分がもっと成長したときは、
これ以上に素晴らしい贈り物を貴女に。
2007/1/31
連載の仔ヒノエが好きだとおっしゃっていたので、ヒロインが熊野へ来て数日経った頃のお話にしてみました。
寧ろ、ヒロインというよりは弁慶との漫才のようですが……(汗)
こんな物でよろしければどうぞもらってやって下さい。
相互有難うございました!
そうや
*夕夏様のみお持ち帰り可