ごちゃまぜ | ナノ

 



邸の中を歩いていれば、女房たちが手に荷物を抱えて忙しなく動いている。


大掃除にはまだ早い。


そう思ったが、女房たちが持っている荷物は、掃除用具などではなく。
上等な反物を抱えきれないほどに手にしている。
だが、その反物は全て同じ色。

いや、若干どこか違うように見えなくもない。



「随分大変そうだな。どこに運ぶんだ?」



たまたま通りかかった女房の手から、反物を取り上げて行き先を尋ねる。
その女房の口から出た名前に、将臣は思わず手にした反物を落としそうになった。










部屋の中、所狭しと置かれた反物を手に、一人唸る姿は一種異様だ。


将臣はまずそんな感想を胸に秘めた。
それだけならまだしも、部屋の中にある反物も全てが同じ色。


確か、赤一色の部屋は精神的に興奮状態になるんじゃなかっただろうか、と過去にテレビでやっていたことを思い出す。
それ以前に、どうしてこんなことになっているのか。



「こんなに部屋散らかして、今度は何やるつもりだ?」



後ろから近付いて声を掛ければ、こちらのことはようやく気付いたように「はぇ?」などというふざけた返事が返ってくる。
どうやら、女房に聞いた話によると、彼女は今朝からずっと部屋に赤い反物を広げて、何やら唸っているらしい。
そして、邸中にある赤い反物全てを持ってきてくれと、頼んだとか。

滅多にない彼女の「お願い」に、ここぞとばかりに女房たちが邸中の赤い反物を持ってきたせいで、部屋の中は赤一色。
少々、いや、かなり目に痛い。

いくら平家の象徴カラーが赤だと言っても、ここまでよく集めた物だと感心してしまう。



「色々とねー。新しく帯をもらったから、一着新調しようかと思って」
「ふぅん、わざわざその帯のために新調するってコトは、随分と気に入ったのか?」



この世界に来た頃は、ミシンという物がなく全て手縫いで仕上げるという行為に泣いていた彼女だ。
今では、少し時間を掛ければちゃんとした物が作れるまでになっている。



「まあね。それに、やるからには徹底的に、って言うじゃん?」
「いや、何をやるかわかんねぇって」
「それはそれ、仕上げをごろーじろーってね」



何やらよくわからないが、今は随分と機嫌がいいらしい。
朝餉の前までは、知盛が起きないだのと言って随分と騒いでいたような気がするが。



「んで、そのもらった帯っていうのは、どこにあるんだ?」
「しまってあるけど、何で?」



聞けば首を傾げながら問いかけてくる。
そこまで言われて気にならない将臣ではない。
逆に、気にならない人がいるなら、是非とも拝んでみたいくらいだ。



「お前が随分と気に入ったんだ。気になるだろ」



言外に「見せろ」と言ってみれば、途端にその表情が歪む。
ここまで不快感を露わにされるのもいい気分ではないが、知盛をおこすときでさえこんな表情は見たことがない。
よほど気に入っているのだろうか。



「将臣に見せたら、私が何を作ろうとしてるかわかるからダメ」
「は?どういう意味だよ」
「そういう意味ですー」



わけがわからずに訊ねてみても、小さく舌を出されて拒否される。
このまま問い詰めれば聞き出せないことはないだろう。
けれど、出来てから何かを確かめるのも面白い。



「んじゃ、お楽しみはまた今度ってな。で、どの反物にするんだ?」
「それが決まらないんだよねー。赤のくせに、何でこんなに色があるのー!」



わけのわからない雄叫びを上げながら反物を放り投げる様は、何か別の生き物に見えてならない。
そもそも、どうして赤でなければいけないのか。
望めば赤以外にもあるだろうに。



「これもいいんだけど、こっちも捨てがたいんだよねー」
「ま、頑張れや」



途端に自分の世界に入ってしまう同郷の友人に、ひらひらと手を振りながら退室する。
こうなってしまったら、何を言っても聞き入れてはくれないだろう。



彼女が何を思って赤の反物を選んだのか、それを知るのはそう遠くない未来。








 前準備は計画的に








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過去にアンケートお礼で出したものです。
これは回り巡る時〜泡沫の夢の中間に入る話かな?
知盛が出て無くても気にしちゃいけません!(笑)
2009.6.29


 
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