ごちゃまぜ | ナノ






「‥‥‥が‥‥‥い」

「ん?どうした?顔が青いぞ、泰衡」

「泰衡様。どうかなさいましたか」



九郎は囲炉裏の側で蜜柑を貪りながら、上目使いで泰衡を見上げた。

銀は主の姿を認めた途端に蜜柑を剥き初め、白い筋まで丁寧に取って行く。


「‥‥‥‥の‥‥つが‥‥‥」

「一体どうしたんだ?」

「泰衡様?顔色が優れませんが‥‥‥」

「‥‥く‥‥‥‥だ‥‥が‥‥」


二人は心配そうに泰衡を見ていた。

部屋の戸口に立つ彼は真っ青でガタガタ震えている。

その様子は尋常ではなかった。


「泰衡?」

「泰衡様?」







「寒い」

「‥‥‥‥‥‥それだけが言いたかったのか?」

「そうだ」

「その割には長かったようだが」

「九郎様、泰衡様は「さ」と「む」と「い」以外の御言葉をおっしゃっておられません。天地神明にかけて私が保証致します」

「‥‥‥?」





生憎とここには、弁慶や将臣や譲といった便利な突っ込みはいなかった。









ひらいずみ☆探検隊







そんな複雑な事情で、三人は雪の中を歩いていた。


泰衡は相変わらずの無表情。


「泰衡」

「なんだ」

「その、落としたものとはなんだ」

「見れば分かる」


(あの泰衡が震えるほどの宝なのか?‥‥‥はっ!もしや平泉に伝わる至宝なのかも知れん!!)


平泉の至宝なら一大事だ。
自分も頑張って探さねばなるまい。




「泰衡様」

「なんだ」

「この場合、突っ込み役は一体誰が」

「お前だ」

「泰衡様の御言葉が私の全てでございます。我が身は朝露程ではございますが、御役目有り難く頂戴致します」



銀は泰衡の前に膝をつきながら、取り敢えず適当に格好良い言葉を言ってみた。
ここに鏡がないのが残念だ。





三人は探していた。
雪の中を必死に探していた。

泰衡はただひたすら皺を寄せていた。

九郎は何を探せばいいのかわからないが、取り敢えず探していた。

銀はこの場に鏡がないのが残念だが、忠実な僕に見えるように探していた。




深い、深い、雪の中




「で、泰衡」

「手短に言って頂こうか、九郎殿」



泰衡は苛々していた。



「あ、ああ、すまん。先程から聞こうとし 「手短にと言っているが」 ‥‥‥何を探しているんだ?」」

「見れば分かる」

「そ、そうか」



泰衡はその顔に、苛々と切なさと喜びと楽しさを浮かべていた。
無表情とも言うが。



「泰衡様」

「なんだ」

「右と左、どちら向きがよりよく見えるでしょうか」

「左」

「泰衡様の暖かい御言葉、胸に痛み入りましてございます。この銀、我が身が果つる時まで、泰衡様の御前を離れる事はございません」

「‥‥‥と言った端から離れていったぞ?」



銀は寒さに耐えられなかった。
取り敢えず斜め四十五度での流し目をしてみたが、泰衡に左と言われたのが気に入らない。
右の方が美しいのに。
右の方が美しいのに。

銀は時空を超えようとしたが、神子がいない。
ショックでふらふらと何処かへ行った。






「あのな、泰衡」

「なんだ」

「雪を掘ってまで何を探している?」



泰衡はやっと九郎を見た。
怒りの火を宿す。



「お前と銀にあって、俺にはないものだ」

「そ、そうか」




九郎は怖くなった。
弁慶がここにいたなら言い返してくれただろうか。
九郎は弁慶に会いたかった。
正月早々よく分からない探し物に突き合わされて悲しかった。
早く帰らねば新春隠し芸大会が終わってしまうではないか。





「‥‥‥‥‥‥はっ!泰衡様!」

「なんだ」

「そのたおやかで白魚の如く美しい御手に握っておられるものは‥‥‥‥‥‥」



ここに将臣がいれば「それは女に言うセリフじゃねぇ?」と言ってくれただろう。
だが、そんな便利なもの(将臣)はいない。




「‥‥‥‥‥‥‥‥次回拍手連載まにゅある?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥泰衡」

「なんだ」

「お前は何を探しているんだ?」

「行くぞ」

「泰衡様。やはり右の方が美しくございましょう」

「好きにしろ」




もしここに譲がいれば全ての状況を説明してくれたのかもしれない。
彼らはとうに夢の中。




「だから何を探しているんだーーーっ!!」









九郎は叫んだ。

朝になっても見つからない。

銀は立ちポーズを研究中。

九郎は帰りたかった。凍える頭で探し物は何か、必死で考えていた。







泰衡は拗ねていた。











この二人に先越された事に。

泰衡は探していた。














だけど。

雪山にヒロインが倒れているのは違う時空だ、泰衡。












ゆきの様より突発的に頂きました(笑)

以前、私がクリスマスフリーで書いた「私の還る場所」を読んで書いて下さったという……!(歓喜)

ゆきのちゃんのサイトにおける、「九郎と銀にあって、泰衡にない物」は「ヒロイン」です(爆笑)
そして、泰衡が必死に探している雪山に倒れているヒロイン(別時空)は当サイトの「私の還る場所」のヒロインです(爆笑)


いかにツッコミが必要であるか、痛いほどに理解できるお話です(笑)
この三人だけを同じ場所にいさせちゃいけない……(ブクク)


ゆきのちゃん、笑えるほどに素敵なお話を有難うございました!

2008/1/4



 
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