いろは47音恋煩い | ナノ
「姫君はそんなに熱心に何を作ってるのかな?」
数日前から針と糸を巧みに操って、何かを作っているのは知っていた。
けれど、何を作っているのかまではいくら聞いても教えてくれない。
部屋に広がっているのは赤い布。
それはこの間航海に行った際、彼女に頼まれて手に入れたものだ。
それからというもの、自分よりも針仕事を優先されてしまい、少しだけ面白くない。
後ろから抱き締めるように腕を回せば、ピシャリと軽く叩かれる。
「針を使ってるときにこんなことしたら危ないでしょ」
「オレよりもそっちのが大切だなんて、少し妬けるね」
耳元で囁きながら唇を落とせば、クスクスと笑い声が聞こえてくる。
「針仕事に妬く別当なんて、熊野の人が見たら驚くよ?」
「それはそれで、人間味があるだろ?」
「はいはい。これで終わりだから、もう少し待ってて」
そう言って、残りの部分を全て縫ってしまう。
糸を結んでから、結び目から少し離れたところで糸を切り、完成したものをひっくり返す。
それはこちらの世界ではあまり見ない装い。
赤一色で出来た服は、所々に白い部分がある。
「これはあっちの世界の着物かい?」
「うん。今年は湛快さんがサンタをやってくれるって言ったから」
そのための衣装だと言えば、ヒノエは納得したように出来た服を手に取った。
確かに、湛快の寸法で作られた服はヒノエにはいささか大きい。
それは体格の違いだから仕方ないけれど、ヒノエはあまり面白くないらしい。
「……だからあんなに張り切ってたわけだ」
「何のこと?」
ボソリと呟くそれは、一体何のことを言っているのかわからなくて。
思わず首を傾げれば、手にしていたサンタの衣装を床に落とした。
「確か、サンタってのは大きな袋にプレゼントを入れてるんだろ?」
「うん。子供たちに配るためにね」
現代で得た知識を思い出しながら言うヒノエは、何を言いたいのだろう。
「あの親父、かなりデカい袋を用意してたみたいだからね」
そこまで言われて、ようやく何のことか合点がいった。
湛快はサンタになりきるために、大きな袋を準備しているらしい。
それだけならまだしも、袋の中に大量にプレゼントが用意されているとしたら……。
考えただけで目眩がしそうだ。
「気持ちだけ、って言ってこようかな」
早めに釘を差しておけば、そこまで準備はしないはずだ。
「今年はあっちがサンタをやってくれるんだろ?好きにやらせればいいさ」
止めるどころか、推奨するような口振りに、でも……と思わず口ごもる。
せっかくの気持ちを不意にするのは、確かに心苦しいものがある。
「だからさ、久し振りに二人だけの夜を過ごそうぜ」
耳元で囁かれる甘い誘惑。
ぞくりと背中に走るのは期待故の疼きだろうか。
あからさまな態度2009.6.9