いろは47音恋煩い | ナノ
「さくら」
あなたに名前を呼ばれたとき、心臓が止まるかと思った。
「な、何?」
思わず言葉に詰まるのは、余りにも衝撃的すぎたから。
人は突然の出来事にはとっさに対応出来ないもの。
もちろん、私だってそう。
あぁ、有川だけは別かもしれない。
異世界に飛ばされて、それでも生きていけるくらいの精神の持ち主。
「いや、呼んでみたかっただけだ」
「子供みたいなことしないでよ」
「いいだろー?減るもんじゃないし」
確実に減る、とは言葉にできなかった。
だって、言ったら私ばっかり彼を好きな気がするから。
「……しばらく有川は私を名前で呼ぶの禁止ね」
「はぁっ?何でだよ」
「何でも。私がいいって言うまで禁止だから」
問答無用で言い切れば、彼は不満そうな表情を浮かべていた。
でも、理由は今は教えてあげない。
不意に、急に、君が、「なら、お前も俺を有川って言のは禁止な」
「ちょっ、何で」
「お前だけってのはズルいだろ」
彼も私を想ってくれているのを少しだけ、理解できた瞬間。
2008.3.2