いろは47音恋煩い | ナノ
 




ヒノエが航海から帰ってきた。
けれど、本宮に戻ってすぐに湛快に呼ばれたらしい。
そんなヒノエを見送ってから、濡れ縁に座りぼんやりと庭を眺めていた。





ヒノエと夫婦になって三年。





湛快の話が何かは、想像が付く。
だからこそ、自分は同席を求めなかったし、求めるつもりもなかった。



「ヒノエが決めたことに、口出しはない」



彼が決めたことならば、それがどんなことでも容認しよう。
こうなることは、この世界に戻ってきたときからわかっていた。
それでも、ヒノエにすら言わずに内に秘めていたのは、自分も熊野の未来を思ってのこと。



「浅水」



ふわり、と肩に何かが掛けられた。
視界の先に入ってきた物に、それがヒノエの上着だと知る。

話はもう終わったのだろうか。



「ヒノエ、話は終わったの?」
「まぁね。でも、姫君が気にすることじゃないさ」



そう言って隣りに座り、肩を抱く彼の体温が温かい。



「ヒノエの好きにしていいよ」
「浅水……」
「熊野を一番に考えてるのはヒノエだからね。ヒノエが考えたことなら、私は従うよ」



さらり、と髪に触れるヒノエの手。

憂いを含んだその表情は、普段のヒノエとはまた違った色気があって。

また一つ、彼のことを好きになる。



すると、肩を抱かれていただけのはずが、いつの間にかしっかりと抱きしめられていて。
いつもなら離れようとするけれど、今日はどうしてだか、離れたくなかった。
ヒノエの決断に従うと決めていながら、その決断を恐れているのは他の誰でもない自分自身だ。





「            」





耳元で囁かれたその言葉に、思わず目の奥が熱くなった。









憂い顔にときめいて





2008.9.7

 
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