いろは47音恋煩い | ナノ
 




「将臣ーっ!私に戦い方を教えてっ」



スパーンッと勢い良く障子を開ければ、部屋の中にいた将臣は悠の形相に思わず息を呑んだ。

走ってきたのだろうか。
着物は乱れ、肩で呼吸している。
けれど、着物から覗く首筋に見えた所有の印に、またか、と呆れるのが先だった。



「お前さ、いい加減学習しろよ」
「私が学習したって、ちもがあれじゃ意味ないじゃんっ!!」



どうやら自分の想像は当たっているらしい。
恐らく、寝起きの悪い知盛を起こしにいって返り討ちにあったのだろう。



「あいつとヤんのは嫌じゃねぇんだろ。だったらいいじゃねぇか」
「毎日なんか私の身が持たないっ!」
(……毎日ヤってんのかよ……)



悠の発言に、思わず半眼になる。
もちろん、内心の突っ込みも忘れない。


彼女と再会した頃に比べると、随分と女らしさに磨きがかかったように思う。
時折見せる仕草に、自分の中の男が反応しそうになるほどに。


けれど、自分の抱く感情は恋愛なんかにはほど遠い。
どちらかといえば、今は家族愛や姉弟愛に近いだろう。
現代とは全く違う世界に二人、同じ場所に存在しているという意味で。



「で?何で戦い方なんだ?」



わざわざ戦に出るわけでもないのに、どうして戦い方など覚えたいのか。



「だって、殺気を出せば喜んで知盛も起きるでしょ!」



彼女が知盛の名をきちんと呼んだことに、顔をしかめる。
普段は「ちも」などと、ふざけた呼び方しかしないというのに。
それほど真剣だということか。
けれど、



「……知盛を煽るだけにすぎねぇと思うけどな」
「クッ……兄上はよくご存知だ」
「知盛……」
「ちもっ!」



たった今、話題にしていた彼の人の登場に、驚きを隠せない。
悠は知盛の姿を見るなり、将臣の背後に隠れる始末。
けれど彼の人が自分に送ってよこすのは、殺気にも似た冷たい視線。
恐らく、この状況は知盛にとって面白くないのだろう。



「有川」
「わかってるって。おらっ、悠。諦めろ」
「ちょっ、将臣。どこ触ってんの!!って、ちもっ!!私は物じゃないんだってばーっ」



後ろにいる悠を知盛に差し出せば、そのまま荷物のように担がれる。
ジタバタと暴れる悠を物ともせずに、知盛はそのままどこかへと去って行った。
まるで台風一過のようだ、と静まり返った室内で将臣は思った。



「悪ぃけど、俺もまだ命は惜しいからな」



しばらくは知盛に近付かない方が無難か、と思うと同時に、悠のこれからを思い肩を竦めた。
知盛からすれば、昼だろうが夜だろうが構わないのだろう。
今から彼に存分に愛されるだろう彼女と、再びまみえるのは今日の夕方だろうか。










なりふり構ってらんないの!





2008.4.17

 
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