重なりあう時間 第二部 | ナノ
 









まさかこんな大人数でエレベーターに乗る日が来るなんて思わなかった。










でも、驚くべきはそこじゃない。










四神が呼んでいるという本の光は、どうして私にも見えるのかな?










Act.34 










時計塔へ行き、仕掛けを動かしてくれば、棚の一つで何かの音がした。
その棚を動かせば、そこから現れたのはエレベーター。
こんなところに何故エレベーターが、とも思ったが、それ以前に全員が乗れるのかと言うことが疑問だった。
普通のエレベーターなら、定員人数と総重量が決まっている。
戦装束を着ている今の格好では、一度に乗れる人数は定員人数よりも少なくなるだろう。
これでは何往復すれば全員が移動できるのやら。


「ねぇ、もしかしたら全員乗れるんじゃない?」
「そうですね、こんなに広さがあれば、一度に全員が乗れるかもしれない」
「けど、この格好だぜ?絶対に重量オーバーだろ」


エレベーターの外でそんなことを考えている浅水をよそに、現代組は早々にエレベーターに乗り込んでしまう。
どうやら、中はそれなりに広いらしい。
ああでもないこうでもないと言いながら、次々とエレベーターに人を乗せている。


「浅水ちゃんも乗ってよー!」
「ちょっと、望美」


腕を掴んで促す望美に、引きずられるようにエレベーターへと乗せられる。
どうやら自分が最後だったらしく、それ以外のみんなは既に中にいた。
浅水を中へ押し込み、望美も中へと入る。


「ほら、全員乗れたじゃない!賭は私の勝ちだね」
「ったく、仕方ねーな。んじゃ、早く先に進もうぜ」


どうやら望美と将臣で全員が乗れるかどうか賭けていたらしい。
何を賭けていたのかは気になるところだが、下手に口を出して巻き添えにされても困る。
それについては後から将臣に聞こうと、浅水はこっそりと思った。





エレベーターに乗って更に下へと降りる。
わずかな振動が響けば、目的地に着いたのだと理解した。
静かに扉が開かれ、外へと出る。
そこにあったのはまたしても本棚。
どうやら、この一角は図書館に似たような構造らしい。


「神子、あなたを呼んでいる本があるようだ」


本棚を眺めていれば、白龍が妙な言葉を呟いた。
本が人を呼ぶなんて聞いたことがない。


「呼んでいる?どの本?」


疑いを持たずに白龍の言葉を聞くその様は、さながら九郎に似ている、と浅水はそっと思った。
これがヒノエや弁慶なら、真っ先に疑っていることだろう。
望美に問われた白龍は、本棚を巡りながら、その手に本を抱えて戻ってくる。
その本はどれも色が違っていて、それぞれ青、赤、白、黒のように見える。
けれど、それ以上に目を惹かれる物がその本にはあった。


「ちょっと気になるから、中を読んでみようっと」
「ん?何だ、その本」
「何だ?って、特に変わったところはないみたいだけど……」


望美が一冊の本を手に取れば、将臣がその本を見て眉を顰めた。
どうやら将臣にもそれは見えるらしい。
けれど、望美には見えないのか、本をくるくると回している。


「馬鹿を言うな、青く光る本など、普通ではないだろう」
「光ってるの?私には全然そんな風に見えないよ?」


すると、九郎までが望美の持つ本について指摘する。
九郎と将臣に見えて、望美に見えない。
それが意味するのは一体何?


「……青龍の呼び声がその書から聞こえるね」


未だ手に三冊の本を持ちながら、白龍が望美の持つ本について話し始めた。


「あ、だから本も青ければ光も青いのか。てことは、他の本は他の四神ってことなんだね」


それでようやく合点がいった、と手を叩けば、望美が驚いた表情で見つめてくる。
そんなにおかしなことを言っただろうか。


「浅水ちゃん、見えるの?」
「え?見える、けど……?」


どこか真剣なその瞳。
だが、そこまで真剣になる理由が見つからない。


「将臣くんは、他の本が何色かわかる?」
「あ?……いや、他の本は普通じゃないのか?」


望美が白龍の持つ本を将臣に見せれば、返ってきた言葉は「普通」の二文字。
その言葉に、浅水もおや?と首を傾げた。
もしかしたら、見える物は人によって違うのだろうか。


「ヒノエ。あの本の中で光って見えるのってどれ?」
「ん?」


ヒノエを呼んできて、望美と白龍の持っている本を指差す。
するとじっと本を見つめてから、ヒノエはすっと、一冊の本を指差した。


「白龍の持っている赤い本かな。あれだけ朱に光って見える」
「うん、この書から朱雀の呼び声が聞こえるよ」


ヒノエの言葉に、白龍が頷く。
やはり赤は朱雀。
そして、それ以外は普通の本に見えるらしい。


「浅水にはどれが光って見えるんだい?」
「どれがっていうか……全部光って見えるんだよね」


肩を竦めながら言うと、さすがにその答えは想像していなかったのか。
ヒノエが瞠目するのが見えた。



青龍、朱雀、玄武、白虎。



八葉は天地に別れ、そのいずれかに属する。
けれど、浅水は八葉ではない。
本来なら、望美と同じように普通の本にしか見えないはずだ。
けれど、望美と白龍の手にある四冊の本は、確かに光り輝いて見える。


「白龍、どうして浅水さんにも見えるのか、理由はわかりますか?」


弁慶が白龍に問えば、白龍は小さく小首を傾げた。
その様子を見ると、どうやら白龍にも理由はわからないらしい。


「ね、白龍。私のこの身体が四神に構成されてるのも、理由に入る?」
「そうか、浅水はそうだったね」
「ならそうなんだ」
「ちょっと待って下さい。僕たちにもわかるように説明してもらいたいんですが」


白龍と浅水の間でのみ伝わる会話に、弁慶が待ったを掛ける。
確かに、この言葉だけでは他の人には伝わらない。
チラリと白龍を見れば、彼は弁慶の言葉にキョトンとしている。
ならば、説明は自分でするしかないだろう。
一体どこから説明すればいい物か。
浅水は小さく息をついた。


「私が一度死んでいるのは、みんな知ってるよね?」


ぐるりとみんなの顔を見回しながら言えば、誰もが小さく頷いた。


譲の夢を違えるべく、浅水は一度その命を失った。


その場にいなかった将臣も、後から説明をしたから、その事実は知っている。
四神の力によって、再びこの世に戻ってきたことも。


「四神が私を蘇らせたのって、現代の姿じゃなくて今のこの姿なんだよね」


そう言って自分の胸元に手を当てる。
あの時は、この姿が自分の全てだと思っていた。
現代で元の姿に戻るまでは。
けれど、現代の姿とあちらの世界の姿。
始めて迷宮に入ったときに言われた、白龍の言葉。
それを考えると、四神がこの姿で自分を蘇らせたのにも理由があるのだと考えられた。


「それが関係してるってことかい?」
「うん。四神の力によってこの姿が作られているなら、四神が呼んでる本が光って見えるのも道理でしょ?」
「あぁ、そういうことですか」


四神の力で作られている身体なら、四神の力が見えて当然。
それを言えば納得したのか、弁慶が小さく頷いた。
けれど、何名かは理解できなかったらしく、説明を求めている姿が見えた。


「けれど、どうして四神は浅水さんをその姿にしたんでしょうね?」
「確かに……現代の姿でも良さそうな物だが」
「それは後からわかるよ、多分」


弁慶と敦盛の言葉に小さく呟けば、二人以外からも視線を受けた。
だが、それ以上は言うつもりはない。





漠然とした予感は、あくまで予感。





夢見をしていない自分は、この先にある未来を知らない。
恐らく、譲もそこまで夢には見ていないはずだ。
何が起こるか、誰にもわからないのだ。


「後から、ということは、君にはその理由がわかるんですか?」
「どうだと思う?」


尋ねてくる弁慶に、逆に問い返せばその瞳が剣呑とした光を放った。
それを見て、失敗したと内心呟いてしまうのは、これまでの付き合いがそうさせるのか。


「本当に、君たちはどうしてそう質問に質問で返すのか……」
「ちょっと待てよ、オレまで入れることはないだろ」
「おや?僕は誰とは言っていませんよ?」
「チッ……アンタって、本当にヤなヤツだな」


けれど、それより先にヒノエが発した一言が上手い具合に弁慶の気を引いてくれた。
そのことに安堵するも、ヒノエとひとくくりにされてしまった事実が少しだけ引っかかる。
それを言うなら弁慶だって同じような物なのに、と声に出して言えないのは、倍になって返ってくるのが怖いからか。
それとも、折角注意を逸らしたのに、再び質問攻めにされるのが怖いからか。
どちらかと言えば後者なのだろうが、弁慶に関しては両方と言ってもいいだろう。
彼に口で勝とうとは思わない。
ヒノエも、それはわかっているはずなのに、どうしてそう食って掛かるのか。


「ね、将臣くん。その本の中身って何が書いてあるの?」
「あぁ、ちょっと待ってな」


天地朱雀のやり取りに自ら口をはさもうという人物はいないらしい。
それぞれがそれぞれの本を手に、中を覗いている。
手持ち蓋沙な浅水は、白龍の元へ行き赤い本を受け取った。
二人の元へ戻りながらページをめくってみれば、中に書いてあるのはどうやら歴代の天地朱雀についてだった。
読み進めていきながら、目の前の二人と比べてみる。


「全然違うね」
「何が違うって?」


呟けば、いつの間にやらヒノエが本を覗き込んでいた。


「あぁ、八葉のことが書かれている書、ですか……」


それにつられるように、弁慶も本を覗いている。
まるで三人が顔をつきあわせるように一冊の本を見ている。
その事実に、浅水は少々呆れながら、ヒノエに本を手渡した。


「それを読んで、自分の前の八葉がどんな人物だったか調べてみれば?」
「浅水は興味ないわけ?」
「二人がじゃれてる間に読んだからね」
「じゃれてるだなんて、酷いな」


ヒノエはそう思っているかもしれないが、弁慶の方は確実に楽しんでいることを目の前の彼は知っているのだろうか。
捻くれた愛情は彼の最愛の甥には通じていない。
けれど、それに懲りない弁慶も弁慶だが。


「ヒノエくん、その本には何が書いてあったの?」


ひょいと、顔を覗かせた望美が、ヒノエの手の中にある本に興味を示した。
女性に問われて答えぬ男など熊野の男ではない。
恐らく彼は、望美に聞かせるのだろう。
歴代の八葉のことを。


「興味あるかい?じゃ、特別に何人か調べてあげるよ」


そう言ってページをめくるヒノエを、望美は興味津々とした様子で待っている。
あの様子を見ると、どうやら青龍について面白いことでも聞けたのだろうか。
そう思い、将臣と九郎の方を見やるが、どうやら二人の表情は正反対のようだった。
どちらかといえば、将臣は普通なのだが、九郎の方が何やら落ち込んでいるように見える。
一体、あの青い本には何が書いてあったのか。
けれど、これからのことを思えば、自分はこの場にいた方がいいような気もする。
何しろ書いてあったのは歴代の天地朱雀。
現在の二人とは似ても似つかぬ人たちだ。
それにヒノエと弁慶が言い合ったりしないとは限らない。


「あぁ、あった。この辺りでいいかな」


ページをめくる手をピタリと止め、ヒノエは望美のためにその部分を読み始めた。










その様子を見ていた弁慶の目が、わずかに光ったような気がするのは、気のせいだろうか?










僕と君、共通の 










次回、天地朱雀の言い合い(笑)

2008/3/10



 
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