重なりあう時間 第二部 | ナノ
 









それは、突然だった。










そう、初めて白龍の力で時空を越えたときと同じ──。










そして、いつだって私一人だけが、違う。










Act.0 










現代へ戻ってきてから二週間ほどがたった。
あちらの世界へ行くまでは、毎朝同じ時間にセットしていた目覚まし時計。
けれど、十年も時計がない世界で生活していたせいか、今日も体内時計が正確に起床時間を告げる。
目が覚めて、ベッドの中で伸びを一つ。
その後、ベッドヘッドにある目覚まし時計を取って、時間の確認。
時計の針は、六時前を指していた。


「まだこんな時間……」


時間を確認して、思わず呟く。
現代に来てからはすでに日課となりつつあるこの行為。
九郎やリズヴァーンは、早朝の稽古でもしているのだろう。
朔や弁慶も朝は早い。
景時はどうせ洗濯機か最近覚えた機械を弄っているのだろう。
敦盛は恐らく一晩中起きていたのかもしれない。
ヒノエに至っては……考えるだけ頭痛の種が増えそうだった。



とりあえず、譲は今日で学校が終わるはずだから、弁当はいらなかったはず。
なら朝食は簡単でもいいか。
プリントや成績表のたぐいは、望美か譲に持ってきてもらえばいいだろう。
そう考えると、まだ早いけれど起きようかと思う。
一度目が覚めてしまうと、二度寝はできない。
せめてもう少し起きる時間が遅くてもいいと思うのに……。
そんなことを思いながら、上半身を起こす。





その時感じた違和感。





明らかに普段と何かが違う。
けれど、その「何か」の正体が、全くわからない。
自分の手を見てみても、それは普段と変わらない自分の手。
ならば一体何が違うというのか。
どこか腑に落ちない物を感じながら、ベッドから降りる。





妙に頭が軽い。





昨夜は別段、頭痛がしていたわけでもない。
至って普通だった。
ならば、どうして頭が軽いと思うのか。
しかもこの軽さは、どこかで覚えがある。
髪の長い人が、バッサリと髪を切ったときに感じるあの開放感。
それに似ている。
そういえば、いつもは起きるとうっとしい髪があるのに、今日はそれを感じなかった。
髪を結ったまま寝た記憶もないから、おかしいと言えばおかしい。
いつだって、朝起きたらいつ髪を切ろうかと思うくらい、サイドの髪が目に入るというのに。


「まさか、ね……?」


鏡を見る前に、自分の手で確認する。
耳の横まで手を持って行けば、そこに感じるはずの髪の長さが違う。
そのまま後ろへ手を回せば、いつも結べていたはずの髪が結べない。
浅水は、今度こそ鏡の前へと急いだ。
自分の姿が鏡に映る前に、きつく瞳を閉じる。
それから、恐る恐る目を開ければ、鏡に映る自分の姿に絶句した。










「……何、で……?」










有り得ない。
どうしてこんな事になっている?
昨夜までは、確かにあちらの世界にいたときの姿だったのに。










鏡に映る浅水の姿は、あちらの世界で慣れ親しんだ姿とは全く違う。
白龍の力で時空跳躍をする前の自分の姿。



長かった髪は、すっかり肩ほどまでの髪に戻っている。
今の自分の髪は、きっと将臣よりも短いだろう。
そして、髪を切った敦盛よりも。
朔とだっていい勝負かもしれない。
誰と一番近いかといえば、この世界にはいない知盛辺りだろうか。
しかし何だって急に姿が元に戻ったのか。
時空跳躍のできない今の白龍では、時を戻すことはできないはずだ。
そして、四神の力を使えない自分も。
彼らの気配は感じることができない。
それを考えても、四神の力はあてにできない。
可能性があるとすれば、白龍。
だが自分の姿が戻ったというのなら、将臣の姿も元に戻ったのだろうか?
彼も、自分と同様に望美や譲とは違い、長期にわたってあちらの世界で成長している。
これで将臣の姿が元に戻っていれば、白龍の力が戻ったと見て間違いないだろう。


「よし、予定変更」


浅水は、手近にあった服に着替え、部屋から出て行った。
向かうは将臣の部屋。










彼の部屋の前に立ち、ノックをしかけた手と扉を交互に見る。
伊達に還内府をやっていた訳じゃない。
人の気配があれば、目を覚ますくらいはするだろう。


「将臣、ちょっと入るよ」


小さく声をかけ、室内に入る。
そうすれば、ベッドの中にある彼の姿。
側へ近付き様子を確認する。
別に布団を剥がなくても、顔さえ出ていれば確認することは可能だ。
彼の髪の長さを確認すればいいのだから。
そうやって確認した彼の髪は、今まで見てきた物と何ら変わることはなかった。





あっちで成長した姿のまま。

何一つ変わらない将臣の姿。

そして、自分の姿だけが変わってしまった事実。





それを考えるだけでも、白龍の力は戻っていない。
だったら一体何が理由だというのか。
こうなったら、直接白龍に聞いた方が早いかもしれない。
どうせ朝食の準備もあるのだ。
このままキッチンへ行っても何も問題はないだろう。





まぁ、何か問題があるとすれば、自分の姿だろうけれど。





姿など、少しすれば見慣れる。
それに中身は何も変わらないのだ。
多少姿が変わったからといって、何かに支障をきたすわけでもないだろう。


「学校は……面倒だからこのままでいいか」


元の姿に戻ったのだから、学校にも行ける。
けれど、わざわざ始業式のためだけに出るのもどうかと思う。
それ以前に、学校に行ったら行ったで、将臣と二人休み続けていた理由を問われるのだろう。
本当のことはもちろん話せるはずもない。
それに、そんな面倒なことをするくらいなら、このまま冬休みに突入した方がいい。
いくらこの世界に慣れて来たとはいえ、将臣一人に彼らの面倒をみさせるのは少々気が咎める。










キッチンへ行けば、既に起きていたのか。
譲が朝食の準備をしていた。


「おはよ、譲。相変わらず早いね」
「そういう浅水姉さんだって早いじゃないか」


朝の挨拶をして、譲の隣に立つ。
すると、浅水の姿を見た譲は、そのまま固まった。
このままでは譲が邪魔で、朝食の仕度ができない。
そう考えると、ずるずると譲を引きずってリビングへと連れて行く。
リビングにはすでに起きていた面々が、思い思いに過ごしていた。


「みんな、お早う」
「浅水、お早う」
「お早うございます」
「お早う……」


リビングには自分の想像通りの人たちがいた。
けれど、その誰もが自分の姿を見るなり絶句したり、あるいは譲同様固まっている。
誰かが復活したら質問攻めだろうな、と見当外れなことを考えながら、譲をソファに押しつける。
そのまま、誰かが声をかけるよりも早く、浅水はキッチンへと移動したのだ。
朝食の時間になれば、嫌でも顔を合わせなければならない。
説明は、その時でいいだろう。










自分でもわからない不可解な現象。










この姿は一体何を意味するというのだろうか。










鏡の前の私と、鏡の中の私 










お待たせしました!
最初から捏造&手抜きですいませっ(爆)

2007/12/1



 
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