始まりの場所 | ナノ
 




天鳥船で橿原に向かうはずが、理由もわからずに不時着した。
そんな事態に陥れば、外に出て確認しようと言う人が出るのは当然のことで。
やはり、風早が千尋に外の様子を見に行こうと千尋に進言した。

真澄にとっては面倒なことこの上ないが、突然墜落した理由には興味がある。
結局、真澄も千尋たちと一緒に外へと降り立った。
だが天鳥船から一歩外へ出れば、そこは深い霧が立ちこめている。
ここまで深い霧が現れるのは、そうそうあるものじゃない。


「何だこりゃっ!?すごい霧だな」
『悪しき霧が、全てを包んでいる』


外に出た瞬間、声を上げたのはサザキと遠夜だが、生憎遠夜の声は千尋と真澄以外には聞こえない。
だからこそ、その後に続いた遠夜の言葉に千尋が声を上げた。
もしかしたらそれは、ハッキリと聞き取れなかったせいかもしれないが。


「……千尋、これを持ってたほうがいい」


何かを考えるようにしていた那岐が、千尋の手に何かを乗せた。


「葉っぱ?」


渡されたそれを見て首を傾げる千尋の後ろから、ひょいと覗き込んでみる。
そこに見えたのは確かに一枚の葉。


「ああ、ナギの葉か」
「まあね。何かの役に立つかもしれないから」


確かに、ナギの葉は魔除けとも言われている。
それに荷物になるようなものでもない。
持っていて困るということはないだろう。


「本当はこんな物の世話にならないのが一番だけど」
「そんなことないよ。ありがとう」


嬉しそうに礼を言う千尋に、普段と変わらない表情で返す那岐は余程無愛想なのか。
それとも、単なる照れ隠しか。
けれど那岐の手がそのまま自分へ差し出されると、真澄は思わず瞬きをした。


「えっと……?」


一体何なのだろうか。
差し出されてくる手は、早く受け取れと無言の圧力をかけてくる。


「一応、あんたにもね」


どうせ無用だろうけど、という言葉を続ける那岐に、だったら寄越すなと言いたくなった。
だが、せっかくくれるという物を、無碍に断る理由もない。
一言例を告げて手を出せば、その上にナギの葉が落とされた。


その後、朱雀の力で霧を吹き飛ばせないかと言うサザキを宥めた。
するとその流れから、龍神についての話を千尋にする羽目になった。
ようやく出発したのは、それら全てが終わってからである。





先の見えない霧の中をただ前進する。
周囲すら確認出来ない深い霧は、このままだと仲間の姿すら見失いそうだ。


「忍人に冷静な意見を聞きましょうか」


風早がそう言って、忍人の姿を探そうとした。
けれど目に見える範囲に彼の姿は見つからない。


「どこかではぐれたのかな?」
「真澄、忍人の隣にいましたよね」
「さっきまでは確かに隣を歩いてたはずだけど」


いつの間に忍人がいなくなったのか。
隣を歩いていた真澄ですら気付かなかった。
もし忍人がいなくなれば、気付いているはずなのに。


『霧が、連れ去った』


遠夜の言葉に真澄の顔がしかめられた。
この霧が原因なら、元凶をどうにかしなければならないだろう。
だが、遠夜の言葉はそれだけではなかった。


『惑いが、人と人を遠ざける。霧に拒まれ……戻された』


もし遠夜の言葉が確かなら、忍人はきっと天鳥船の近くにいるのだろう。
そう心配するようなことでもないか、と忍人のことを考えるのを放置する。
だが、その後次々と姿が消えてしまっては、さすがに不安にもなるというもの。


「えっ?」


霧が一層深くなった。
そう思った次の瞬間。
真澄は目の前が真っ白になった――。















気が付けば、真澄は自分が寝台に横になっていることに気が付いた。


「あれ……確か、霧の中にいたはずなのに」
「ああ、気が付いたようですね」


聞いたことのある声。
最近はあまり聞かなくなっていたが、自分はこの声の主を知っている。


「……道臣?」
「そうです。倒れているあなたを見て驚きましたよ」


渡された水を飲みながら話を聞けば、どうやら自分は霧の中倒れていたらしい。
しかも、自分以外にも倒れていた人がいるらしい。
そちらは布都彦が連れて来たとか。


何となく嫌な予感がする。


自分の考える人でなければいいのに、と思ってしまっても仕方のないことだろう。
だが、もしそれが自分の知っている人物であれば、一人で天鳥船に戻るわけにもいかない。
そうなると選択肢は一つしか残されていないのだ。


「道臣、私の他に誰を拾ったの?」
「拾ったとは、随分な言い方ですね」


随分な言い方、と言う割にそれ以上は追求してこない。
それは真澄という人間を理解しているからか、否か。


「で、誰?」


いつまでももったいぶってないで、早く教えて欲しい。
そう急かす真澄に、道臣は小さく溜息をついた。





「二ノ姫ですよ」





その名前を聞いた途端、やっぱりかと小さく呟く。
今もまだ、意識は戻らないらしい。

千尋が気付くまでは天鳥船に戻れない。

その事実に、真澄は重い溜息をついた。





方角さえもわからない 
そのすぐ後に布都彦にも会った





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千尋とは別室でした
2009.5.19


 


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