始まりの場所 | ナノ
 




ひらり。
目の前に落ちてきた一枚の羽根。
明らかに自然ではないそれに、思わず真澄は空を仰いだ。


「拾っちまったなぁ、お嬢さん」


今いる顔触れの中で女は二人。
二ノ姫である千尋と、真澄。
けれど、真澄は空を仰いでいたから、何も拾ってはいない。
となると、必然的に拾ったのは千尋になる。
小さく嘆息をついて、声がした方へと顔を向ける。


「さぁて、お嬢さん。それからお連れの方々……。麗しい森の中でひじょーに言い出しにくいことだが……有り金、全部置いて行って貰おうか?」


視界に入ったのは、その背に翼をもつ人たち。
先頭の赤い髪がリーダーなのだろうか。
それにしても、有り金全部置いていけとは、これまた随時と物騒な。


「な、今度は翼がある人?しかもこんなに沢山……」
「何だ、山賊か?」


どうやら千尋は彼ら――日向の一族――について知らないらしい。
まぁ、生まれてからずっと橿原宮で過ごし、更には五年前に異世界へと旅出ったのだ。
知らなくとも無理はない。


「山賊?あんな格好悪い連中と一緒にされちゃ、やりきれねーな。俺たちはもっとマシな人間だぜ?」
「……マシな人間が旅人を襲うなんて話、聞いたこともないんだけど」


思わず呟いた真澄の言葉は彼らには届かなかったらしい。


「地に縛られず、風のままに生きる海賊だ。お間違えのないように」


胸を張って言い切る青年に、真澄は思わず頭を抱えた。
山賊ではなく海賊。
結局、賊であることに変わりはない。
しかし、どうして海賊なのか。
どうせなら、その背中の羽根を有効利用して、空族にでもなればいいのに。
だが、海賊がどうして山賊紛いのことをしているのだろう。
海賊なら海にいるはずだろうに。


「山の中なのに海賊なの?」


ことり、と首を傾げた千尋は、率直に質問を投げかけた。
そんな千尋に、誰もが「うわぁ」と声を上げる。
素直なのか、それとも馬鹿なのか。
誰もが内心突っ込みながらも、あえて口にはしなかったのに。


「ぐはぁっ!言っちゃあいけないことだぜそれ。船の無い海賊なんてどうなの、って言いたいんだろ?海に出ないなら、ただの野盗じゃないの?とかさあ。あーひでぇ、傷ついたぜ!」


千尋の言葉に、まくし立てるような口調になる。
その口振りを聞く限り、それほど悪い人物のようには感じられない。
――賊と言っているところで既に悪人だが。


「物を盗るなら、山賊も海賊も変わらないよ。それに、渡せるようなもの、持っていないもの」


ねえ?と同意を求めてくる千尋に、頷いてみせる。
ただ御木邑へ向かっていただけなのだ。
必要最低限の物しか持っていない。


「別にあれだぜ?すっげぇ高価な玉とかじゃなくったってさ、あるだろ?レヴァンタのとこに行くんだったら」
「レヴァンタ?」


その名前に、ピクリと真澄の肩が揺れる。
レヴァンタは常世の将で、土雷とも呼ばれている。
実力は確かだ。
もしかして、自分たちはレヴァンタの元へ行くと思われていたのだろうか。


「そう、レヴァンタ。……って、あれ?」
「……サザキ……はずれだ」


こちらの反応に、今度は日向の青年が首を傾げる。
すると、今まで黙って控えていた青年が、ぼそりと話す。


はずれ。


その言葉を聞く限り、やはりレヴァンタの元へ行くと勘違いされていたのだろう。


「え、まさかアンタ達、ほんとに偶然通りかかっただけなのか?ただの善良な一般人……?」
「偶然じゃないぞ。この先の、御木邑に行くんだ」


驚いたようにこちらを指差して言えば、足往が食ってかかる。
ご丁寧に行き先まで教えてやるとは。
足往らしいというか、何というか。


「……そういうのを通りがかりって言うんだろ」


足往の言葉に呆れたように訂正を入れたのは那岐だった。
いちいち訂正するのが面倒臭い真澄は、既に何も言うつもりすらなかった。
言ったところで何も変わらないのだ。


「いやぁ、悪かった!」


その後、少し話してみて完全な誤解だとわかれば、和解するまでに時間はいらなかった。


――食べ物で解決しようというのはどうかと思ったが、結局それで懐柔されてしまった――





この出会いが、後にまで関係してくると、誰が想像出来ただろうか。





発言には注意しろ 
もらったお菓子は確かに美味しかった





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サザキとの出会い
2008.8.20


 
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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