重なりあう時間 | ナノ
閑話 参





閑話 参
 Time has passed.






どうしよう。
浅水ちゃんのことが何一つ分からないまま、屋島での戦までやってきてしまった。
どの運命でも、屋島では必ず何かがおきる。
そう考えると、やっぱり譲くんの身にも何かが起きるのかな?
ううん。きっと起きるに違いない。
本当は、何も起きなければ一番良いんだろうけど、これは変えられる運命だから。
だから、譲くんの身に何かがおきたら、私は運命を上書きする。
それだけの、力を私は持っているから。
でも、どうして浅水ちゃんにだけ会えないのかな?
この運命に初めて現れた翅羽さん。
彼女は、本当に浅水ちゃんに繋がるの……?


「神子?どうかした?」
「白龍」


志度浦の海岸で海を見ていた私の隣に、いつの間にか白龍が来ていた。
白龍なら、何か分かるかな?
翅羽さんが現れた、この運命のこと。


「私、今までの運命で翅羽さんに会ったことなんて、一度もなかった。浅水ちゃんが星の一族の分家っていうことも、この運命で初めて知った」
「神子……」
「でもね、もう屋島まできちゃった。ここまで来たら、浅水ちゃんを探す手がかりなんて見つからない。見つかるわけ、ない」


だって、この戦が平家との最後の戦いになるかもしれないから。
そうじゃないとしても、私がこの運命を上書きするために時空を越えたら、浅水ちゃんからは更に離れてしまう。


「白龍は、初めて翅羽さんに会ったとき、私と同じで温かいって言ったよね?どうして?」
「よく、わからない。でも、翅羽は神子と同じ気を感じた。清浄で清らか」


同じ、気。
それは同じ世界から来たから、という理由にはならないかな?
でも、翅羽さんはこの世界の人だ。
ヒノエくんや弁慶さん、敦盛さんとも昔なじみ。
それに、浅水ちゃんがそんなに昔に飛ばされたとして、今の私と同じ姿なんて有り得ない。


「白龍。私、浅水ちゃんに会えるのかな?」


思わず零してしまった本音。
でも、本当は分かってる。
こんなにまで捜しても、浅水ちゃんに会えない理由。
それでも、認めたくないから必死になって探そうとしてる。





もしかしたら、既に命を落としているかもしれない──。





それだけは、認めたくなかった。
でも、戦乱のこの時代。
怨霊までも現れるこの世界じゃ、いつどこで、何があってもおかしくない。
私と譲くんは運良く源氏方に付くことが出来た。
朔や景時さんにはお世話になったし、他にも仲間が沢山出来た。
将臣くんだって、私たちより数年前にこの世界にたどり着いたけど、平家の人たちにお世話になってる。
それだって、努力をしなかった訳じゃないだろうけど。
いい人にお世話になってて、幸せにすごしてるなら何も言わない。
でも、いい人ばかりじゃないのは私だって知ってる。
実際、京の六波羅と熊野で、身をもって知ったから。
些細なことでもいい、せめて生死が知りたかった。


「浅水ちゃんに、会いたい……っ」


言葉にすれば、その想いは随分深いところまで来ていたのだと知る。
私の中にある、最後の浅水ちゃんは、この世界に流れるときの姿。
白龍によって、激流に呑まれたあのとき。


「会えるよ」


白龍の言葉に、私はハッと顔を上げた。
今、彼は何て言ったの?
この耳に届いた言葉は、幻聴?


「神子は、浅水に必ず会えるよ」


やんわりと微笑んで、自信たっぷりに言う白龍の姿に、やっぱり神様なんだって思った。
それと同時に浮かぶ疑問。
今までの運命では、会えるなんて一言も言ってくれなかった。
もちろん、私も聞いたりはしなかったんだけど。
それなのに、断言するっていうことは、白龍は浅水ちゃんの居場所を知っているの?
それとも、ただの慰め?
弱音を吐く私に、会えるという希望を持たせるための。


「どうして……どうして必ずなんて言えるの!」


気付いたら、私は白龍に詰め寄っていた。
こんなの、子供の癇癪よりたちが悪いね。
それでも白龍は何も言わない。
私の背中にそっと腕を回してくれるだけ。


「今の神子は、不安で一杯になってる。だから私も少しだけ言うけど、大丈夫。浅水はちゃんと生きてるよ」


白龍の言葉に、私は思わず耳を疑った。


浅水ちゃんが、生きてる。


その言葉を聞いた途端、私はその場にへたり込んだ。


「神子、大丈夫?」


心配そうに尋ねてくる白龍には悪いけど、今は自分のことを気にしている場合じゃない。
だって、こんなに嬉しいことはないから。
浅水ちゃんが生きてるって分かっただけで、頑張ろうっていう気持ちになれる。
私はまだ、頑張れる。


「白龍は浅水ちゃんに会ったことがあるの?」


もし会っていたら、どんな様子だったか知りたかった。
だけど、返ってきたのは曖昧な微笑。
その表情はどういう意味なんだろう。


「神子には悪いけど、私もこれ以上は言えないんだ」
「そっか……」


一気に落胆したのが分かった。
一つのことが分かると、もっと知りたくなるのは人の性なのかな。


「神子。もう少しだけ、待って。もう少ししたら、全てが分かると思うから」


白龍の言葉に嘘や偽りがないことは、私がよく知ってる。
だから今は、白龍を信じようと思う。
浅水ちゃんは生きていることを、譲くんにも伝えてあげたい。
それに、譲くんには渡しておきたい物もある。


「ありがとう、白龍。私、ちょっと譲くんのところに行ってくる」
「うん。神子が元気になって良かった。そういえば、九郎が軍議を始めると言っていたよ?」
「ちょっ、白龍。そういうことはもっと早く言ってよ〜!」


肝心なことはいつも最後なんだから。
急いで譲くんを探して、みんなの場所へ戻らなきゃ。
気が急いていた私は、その場に残った白龍の言葉は届かなかった。
もう少し、その場に残って白龍の言葉を聞いていたら、絶対にその理由を問い詰めていたのに。


私がその理由を知ったのは、もう少ししてからのこと。





「──七宮浅水。星の一族の分家にして、最後の継承者。浅水。浅水は、それで本当にいいの……?」










久し振りに望美視点。そして、譲ルートは初めての模様
2007/6/6



 
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