重なりあう時間 | ナノ
京編 弐





漆話
 ようやく全てが動き始めたから






どうしてこうなったんだろう。


六波羅にあるアジトを出て、羽振りの良さそうな木に登り思案に耽る。
視界には何かを伺っているヒノエの姿。
その表情は、何か面白い物を見つけたようだ。
ぐるりと周囲を見回せば、数人の集団が走っているのが見える。
しかも、その中の一人は自分の顔見知りときた。
京にいるのは知っていたが、こんなところで見かけるとは思ってもいなかった。


「京に行かないか?」


全てはヒノエのこの一言から始まった。


本宮へ帰ってきてから数日。
浅水は今も過去を夢に見ていた。
これほどまでに同じ夢を何度も繰り返してみるのは意味がある。
そう思い、理由を探してみるが何一つ思い浮かばない。
そういえば三年前も、この夢を続けて見た日があったな、と思わず苦笑した。
三年前はある日を境に、ピタリと夢を見なくなったのだけれど。
今回は既に一週間を超えている。
いい加減、何かあると考えていいだろう。
部屋の中に一人で居ると同じ事ばかり考えてしまう。
浅水は気分転換でもしよう、と襖を開けた。


「浅水、丁度良かった」


襖を開けると同時に聞こえてくるヒノエの声。
声のした方を見れば、その手には文を持っている。
何となく嫌な予感がして、そのまま襖を閉めかけた。


「どうして部屋に戻ろうとするのかな、姫君は」
「何でもない、何でもないからその手を離して」


ちゃっかりと、襖には閉められないようにとヒノエの手がかかっている。
何とか閉めたかったが、そこは男と女。
力の差が歴然としている。
結局、根負けした浅水は部屋にヒノエを招き入れた。


「用は何?」
「最近、京に龍神の神子が現れたって面白い噂が流れているだろう?」


ヒノエの言うとおり、ここ最近、京に龍神の神子が現れたと巷で話題になっている。
自分とも関係のあるそれに、浅水の目が光る。
事情を知らないヒノエは、違う解釈をしたようで満足げに笑みを浮かべた。


「烏からも連絡が入ってね。どうやら本当らしい。ねぇ、浅水」


そこで言葉を句切り、浅水を見る。
思わず姿勢を正してしまいたくなる、射るような視線。





「京に行かないか?」





その言葉に、思わず自分の耳を疑った。
誘われるのは嬉しい。
自分も龍神の神子という人をこの目で見てみたい。
だが、今の自分たちの立場を考えて、同時期に二人も京へ出て平気だろうか?
そんな思いが顔に出ていたのか、ヒノエはやんわりと微笑んだ。


「後白河院から、熊野の舞姫に雨乞いの舞を舞ってくれと文が届いてね」


そこで先程手にしていた文を見せる。
確信犯。
チラリとヒノエを睨み付けてから、渋々と返事二つで答えた。





そして、今に至る。
足をプラプラと動かしながら、どうしたもんかと考えれば、走っている集団の中の一人が誰かに何かを告げて、その足を止めた。
そのまま自分がいる木のほうへやってくる。
木の側まで来ると、ピタリと足を止め枝を見上げた。


「そこにいるのはわかっていましたよ。降りてきてはもらえませんか?」


久し振りに聞く、声。
懐かしさに、思わず笑みが浮かぶのがわかった。
座っている木の枝に手をかけ、そのまま飛び降りる。


「お久し振りです、浅水さん。いえ、その姿ということは翅羽ですか」


着地したと同時に掛けられる声に、相手の顔を見る。


「うん。久し振り、弁慶」


笑顔で応えれば、同じように弁慶も笑顔を向けた。










これから暫くゲーム沿い
2006/12/16



 
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