重なりあう時間 | ナノ
熊野捏造編 伍





伍話
 流転する万物の中の一片






浅水の話を聞いた後、湛快と弁慶はお互い難しい顔をしていた。
部屋に浅水の姿はない。
夕べから何も食べていない浅水に軽い食事をと、女房と共に部屋から出て行った。


「しかし、十七だったとは……」
「どうりで外見と言動に違和感があったわけだ」


浅水の話を聞いて、まず驚いたのはその年齢だった。
どうしてそうなったのかはわからない、と本人も言っていたが、何かの力が働いたのではないかと思う。
湛快もまた、湛増と同様に浅水から、何かしらの神気を感じていた。


「それで、浅水さんのことはどうするつもりですか?」


別世界から、何かに巻き込まれてやって来た少女。
知識は元々この世界にいたという祖母から多少もらったらしいが、ただそれだけ。


全く知らない場所にただ一人という現実。


「京に連れて行くにせよ、行かないにせよ、無下にはできないでしょう?」
「そうだな……」


拾ったからには最後まで面倒を、というわけではない。
これが男だったら簡単に答えは出ていただろう。
なぜ簡単に答えが出ないのか、と言われれば浅水が女だったから。


そう、熊野の男は女に弱かった。


「熊野に来たのも、何か理由があるかもな」


ポツリと呟いた湛快に、弁慶は同意した。


「なぜ、熊野だったんでしょうね」


京にある一族の分家ならば、京に行っていたかもしれない。
だのに、浅水が現れたのは熊野だ。
理由があると考えない方がおかしいだろう。


「ま、今はわからなくても、そのうちわかるかもな」
「決めたんですか?」


何を?とは聞かない。
そんなもの、聞かずともわかっている。


「あぁ、どこにも行き場がないなら、俺が面倒見るさ。なぁに、嬢ちゃんだってこれから学ばなきゃなんねぇことのが多いんだ」


嫌とは言わねぇだろ、と付け加えながらニ、と笑みを浮かべる表情は、どこか悪戯を考えた子供のようだった。


「そうですね。僕も、出来る限り協力しますよ」


微笑を浮かべながら協力を申し出た弁慶に、湛快は少しだけ浅水のことを思った。
それは、自分の弟の性格のことを思ってだったとか、そうでなかったとか……。


「さて、と。今日から一人増えることをみんなに言わねぇとな」


よいしょ、と声をかけながら立ち上がる湛快に、弁慶の手痛い言葉がかけられる。


「おや、もう年ですか」
「息子がいても俺はまだ若ぇよ」


それに文句を言いながら部屋を出ると、手の空いている邸の人間を、広間に集めるようにと収集をかける。
勿論、その収集には浅水と湛増も含まれていた。
しばらくして、邸内の人間が集まると、湛快はそこでこれから一緒に生活すると、浅水のことを紹介した。
湛増は勿論のこと喜んだ。
だが、これに驚いたのは紹介された本人の浅水である。
寝耳に水、とはまさにこのこと。





この日から、浅水は藤原家の一員として、ひいては熊野の人間として十年もの間、この地で生活することになる。










過去捏造編、これにて終了。
2006/12/12



 
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