重なりあう時間 | ナノ
熊野編 参拾肆





陸拾肆話
 許されなくていい、






望美を救出するために海賊たちの前へ姿を現した二人だが、ヒノエが自らの立場を明かしてしまえば、それから先は簡単だった。
熊野の頭領相手に尻込みした海賊たちは、誰が先に前に出るかで揉めているうちに、水軍に囲まれた。
浅水はやって来た水軍に簡単な指示を出して、海賊たちを取り押さえる。
その間、ヒノエは望美の側で彼女の無事を確認していた。
しばらくして、浅水が二人のいる場所へ戻れば、浅水の姿を見つけた望美の顔に翳りが見えた。


「ヒノエくんが熊野の頭領で、翅羽さんが副頭領……」


小さく呟かれた言葉に、二人は顔を見合わせた。
そういえば、望美には熊野水軍と言うこと以外、何も告げていなかったのだ。
熊野別当、そして、その補佐であることを。
だが、それを後悔するつもりはない。


「今まで一緒だったのに、黙ってたなんて……こんなことがなかったら、ずっと黙ってるつもりだったの?」


まるで、泣き出しそうな表情。


「さぁ?それはどうかな」


いつものように飄々と答えれば、今度こそ望美の瞳に涙が浮かぶ。
だが、ヒノエと浅水が黙っていたのは事実。
望美から非難を受けたとして、それを受け入れるのは当然のこと。


「ねぇ……そんなに私たちをからかったり、驚かせたりするのが楽しいの?」


普段の行いが物を言うとはこのことだ。
浅水は何も言わず、二人の様子をうかがうことにした。
船べりに背を預け、風に髪をなびかせる。

もうすぐ船は勝浦へ着く。
そうしたら、自分の伝言通り弁慶が港に来ているはず。


「人生、驚きはつきもんさ。ま、ちょっとばかり、驚かせすぎたのは認めるよ」
「…………」


望美の言葉を肯定すれば、彼女はうつむき、口をつぐんだ。
これ以上は言うつもりがないらしい。
そんなとき、勝浦の港が浅水の視界に入ってきた。


「ヒノエ」


呼んで、顎で前方を促す。
指された方を確認すると、ヒノエは望美の髪に触れた。
その瞬間、ぴくりと肩が揺れたのが目に入る。


「……いろんなことがありすぎて疲れてるだろ?話は、そのうちゆっくり聞くから、今は休めよ」


そう言って、望美の返答を聞く前に離れる。
その際、何か言いたげに望美が顔を上げたが、背を向けたヒノエはそれに気付くことが出来なかった。





船が港に着けば、浅水はまず弁慶の姿を探した。
こんな真夏に、頭からすっぽりと外灯を被っている彼の姿は、船の上からすぐに知れた。


「悪いね、こんなこと頼んで。さすがに、望美一人で戻すのも心配だからさ」
「いいえ、構いませんよ。どうせ今から後処理があるんでしょう?」
「まぁね」


肩をすくめながら答えていれば、ヒノエに連れ添われ、船から望美が下りてくるところだった。
未だ、ショックから抜けきれていないらしく、その表情はどこか暗い。
何か話しているらしいそれは、多分今後の自分たちの在り方だろう。


「ヒノエと私の立場を知って動揺したらしい。あぁ、私のことは別当補佐としかまだ知らないから」


その言葉に、思わず弁慶の眉がひそめられる。


「名前も、言っていないんですか?」
「……まだ、言えないんだ。熊野での立場なら、望美に話してもいいから」


それだけ告げると、弁慶からの追求がくる前にその場から離れる。
そのまま望美の前へ行き、足を止める。
下を向いていた望美の視界に浅水の足が入れば、その顔が上に上げられる。



「怖い思いをさせてごめんね」




もっと早く言うべきだった謝罪の言葉。



望美が無事だと分かって、どれだけ安堵したことか。










いろいろと中途半端……orz(爆)
熊野編は次回終了予定です
2007/4/13



 
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