重なりあう時間 | ナノ
熊野編 参拾参





陸拾参話
 泥棒さがし






コッソリと海賊たちの船に忍びこんだ浅水とヒノエは、まず望美を捜すことから始めることにした。
この船にいるのは分かっているが、どこに連れていかれたのかまでは分からない。
居場所が分からなければ、何も始めることが出来ない。


「浅水、準備はいいか?」
「もちろん」


懐に忍ばせている短刀に手を伸ばし、ぎゅっと柄を握りしめる。
緊張した声で返せば、二人は小さく頷いた。

それが、始まりの合図。

なるべく気配を消して、船内の様子をうかがう。
それから、怪しい部屋を見つけたらその部屋の中を覗く。
出来るだけ騒ぎを起こさず、かつ迅速に。
しばらくそんなことを繰り返していたが、肝心の望美の姿は一向に見つからない。


「ここまで探していないとなると、残ってるのは甲板、だね」


正面に見える扉を一瞥しながら言えば、それに同意するようにヒノエも頷いた。


「ここまで探して見つからないんじゃ、十中八九そこだろうな」
「無事だといいんだけど……」
「……望美なら一人でも何とかしてそうだけどな」


歩きながら遠い目をしてぼやくヒノエに、何か身に覚えでもあるのだろうか?と首を傾げる。
気にするな、と頭をぽんぽんと叩かれれば、それが子供扱いのようでおもしろくない。
だが、それ以上口に出すことも出来ず、むっと頬を膨らませることで自己主張してみる。
それを見たヒノエが、何か言いたげに口を開くが、それが言葉になることはなかった。

甲板に出た瞬間、ぴん、と張り詰めた空気が走る。

耳を澄ませば聞こえてくる人の声。
何か言い争っているようにも聞こえるそれは、馴染みのある声。
二人は、用心深く物陰に隠れながら、声がする方へと近付いていった。





「この着物は全部借り物なのっ!それに、いい服を着てたって、お姫様とは限らないんだからね!」


望美は、果敢にも自分を攫った海賊たちに声を上げていた。
こんなことになるなら、せめて刀を持ち歩けば良かった。
ほんの少しの間だから、と何も持たないで出たことに後悔する。
自分が攫われるのは、よくあることだったのだから。
そう思ったところで、今の状況は変わらない。
今、自分に出来るのは、助けが来るまでに時間を稼いでおくこと。


(大丈夫。きっと、助けてくれる)


過去にこの運命を辿ったときもそうだった。
必ず助けがやってくる。
そう、彼が──。


「チキショウッ!とんだ無駄足じゃねぇか!誰だ、お姫様がいたなんて言った奴ぁ!!」
「こうなったら、コイツを海へたたき込んで……」
「待ちな!」


海賊たちが話をまとめていれば、そこに現れた第三者。
ヒノエが望美を胸元に抱き寄せれば、その二人をかばうように海賊との間に入る浅水。
その手には抜き身の短刀が握られている。


「ヒノエくん、翅羽さん!」


二人の姿を見た瞬間、ぱっと望美の顔が輝いた。
やはり、助けに来てくれると分かっていても、心のどこかでは不安を感じていたのかもしれない。
二人を見て、望美はそんなことを思っていた。


「テメェら、何者だっ?!」
「オレを、知らない?ハッ、それでも海の男かよ」


海賊が上げた誰可の声に、思わずヒノエは鼻で笑った。
まさか自分を知らない奴がいたなんて。
後ろから聞こえてくるヒノエの声に、バカな奴ら、と浅水は小さくごちた。
望美を攫っただけでも大事だというのに、よりにもよって、ヒノエの顔を知らないとは。





「オレは、熊野別当、藤原湛増」





ヒノエが名乗りを上げた瞬間、ざわり、とその場がどよめいた。










前半部分はビバ捏造!(爆)
ヒノエと望美は京で大原に行っています。
2007/4/11



 
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