重なりあう時間 | ナノ
熊野編 弐拾漆
伍拾漆話
尋ね人ステッキいざ別当に会おうとすると、ヒノエは少し別行動をすると言い始めた。
「道中の無事を報告してこなきゃ。翅羽はどうする?一緒に行くかい?」
「そうだね……私は遠慮しておこうかな。取り立てて報告するようなこともないし」
「じゃあ、また後で」
やんわりと同行を断れば、あっさりとヒノエは去っていった。
彼のことだ。
報告しがてら、これからのことを話してくるに違いない。
そう、望美たちとの面会についてとか。
そう考えると、自分もついて行った方が良かったか、という思いが頭の隅を掠めたが、ついて行ったとしても自分ができることは少ない。
ヒノエにも考えがあるのだろうし、任せておけば大丈夫だろう。
「娘さんたち、別当に会いに来たのかい?別当は今留守にしてるよ」
そんなとき、望美たちの前に現れた舎人の姿を見て、浅水は慌てて弁慶の後ろに隠れた。
本宮の前で下手に人に会おうものなら、その人は自分の顔も知っているということ。
ここで自分の正体がばれてしまったら意味がない。
神子だと言われるならまだしも、別当補佐はまずいだろう。
「やっぱりヒノエについて行けば良かったと思いますか?」
「どうだろうね。でも、別行動の方が、情報は入ってくるからね」
「確かに、それはありますね」
弁慶の後ろに隠れたまま、ぼそぼそと話せば望美たちから速玉大社という言葉が聞こえてくる。
どうやら、別当が速玉大社にいるという話らしい。
舎人がその場を去ってから、浅水は弁慶の後ろから出た。
すると、少し離れたところから、見慣れた色が見えた。
「ただいま、姫君。お参りは済ませたかい?」
「うん、おかげでおもしろい話を聞くことができたよ」
ヒノエが望美の話を聞けば、始めの方はおもしろがっていたものの、次第に難色を示してきた。
せっかく本宮で会う算段をつけてきたのに、わざわざ速玉大社まで行かなければならないのだ。
「それとも、ヒノエくんは頭領さんが速玉大社にいないって知ってるの?」
「あー……まぁね」
語尾を濁しながら言うヒノエに、思わず浅水は苦笑した。
まさかここで、頭領は目の前にいるとは言えないだろう。
だが、ヒノエの言葉を聞いて楽しそうに笑んでいる望美は、ヒノエが困っている理由を知っていそうだった。
(望美はヒノエが別当だと知っている……?でも、いつそれを知った?)
今までそんなそぶりは見せなかっただけに、浮かんだ疑問は消えてはくれなかった。
「……まぁいいか。たまには速玉にもちゃんと顔を出すかな」
ぼそりと呟いたヒノエの言葉を聞き取って、速玉に行くのかと思う。
「オレちょっと烏を飛ばして速玉大社に連絡入れとくよ。頭領とお前たちが対面できるよう、手はず整えてくれってね」
「あ、そりゃいいや。よろしく頼むよ〜」
ヒノエの言葉に景時が嬉しそうに便乗した。
せっかく速玉まで行って、またしても頭領がいなかったらと考えたらゾッとするだろう。
熊野の別当は神出鬼没。
そして、その補佐も同様に。
だが、舎人から別当補佐の話は出なかったし、望美たちも言わないから補佐のことは知らないのかもしれない。
「せっかく本宮大社まできたんだから、今日は一泊していったら?」
「近くに温泉もあるし、旅の疲れをとるにはサイコーだよ?」
浅水とヒノエが本宮で一泊を進めると、九朗がそれに抗議の声を上げた。
それに納得できるような返事を返せば、渋々と折れる。
「じゃ、今晩は泊まってくことにするよ」
最終的には、望美の鶴の一声だった。
ちょっと閑話的なお話
2007/4/1