重なりあう時間 | ナノ
熊野編 弐拾陸





伍拾陸話
 キレイでも、キタナくても、あなたの手は救いだもの






本宮を目の前にして、浅水は頭を悩ませていた。
今浅水が立っている場所から数歩進めば、そこには結界がある。
本宮の周りに張り巡らされている結界は、普通の人ならば難なく通り抜けることが出来る。
だが、不浄なものは決して通ることを許されない。
外見のせいもあってすっかり忘れていた。


敦盛も怨霊だということを。


多分、いや、確実に敦盛は結界を通ることは出来ないだろう。
だが、怨霊といえども、神子を守護する八葉。
何らかの加護を受けることは出来ないだろうか。


「そんなに甘くないのは知ってるけど、少しくらいって思うのは、悪くないよね」


呟いて、前髪を掻き上げる。
前を行く望美たちは、次々と結界を通り抜けて行く。
それどころか、結界の存在にさえ気付いていなさそうだ。
敦盛が進んでいくのを見て、僅かばかりの期待を望む。


「……っ!」


バチッ、と敦盛が結界に弾かれたのを見て、やはり甘かったと悟る。


「やっぱり敦盛は通れないみたいだな」
「そうみたい。何か方法があればいいんだけど」


同じように敦盛を見ていたヒノエの声からも、どこかやるせないものを感じた。


「いや、わかっていたことだ。二人のせいじゃない。神子、私はここで待っているから、先へ進むといいだろう」
「敦盛が行かないなら、私も残るよ」
「なっ、翅羽殿?!」


その場に留まるという敦盛に便乗して、自分も残ると告げれば、普段とは違った声色になった。


「別に驚くことじゃないでしょうに。敦盛一人を残していけないよ」
「そうですよ!」


本宮の結界の中にいたはずの望美が、浅水に同意しながら敦盛の側まで戻ってくる。


「敦盛さん一人を残して行けません。だから、一緒に行きましょう」
「み、神子?あの、私に触れては……」


敦盛の手を握りながら、再び本宮の結界へ向かう望美に、敦盛があたふたとする。


「大丈夫です!敦盛さんは汚れてなんかいません。それに、過去の八葉もこの方法で結界を通れたらしいですよ」


景時から教わった話を敦盛にしながら、望美が結界を通る。
すると、その場で立ち止まり振り返った。


「敦盛さん、大丈夫だから」


ね?と笑顔で敦盛が足を踏み出すのを待つ。
少しした後、恐る恐る一歩を踏み出す。
先程と同じ衝撃を予想していた敦盛は、いくら待っても訪れないそれに、ゆっくりと周囲を見回した。


「あ……神子、ありがとう」
「よかったですね」


はにかんだ笑みで礼を言う敦盛に、ほっとしたのは望美だけではなかった。
未だ、本宮の結界の外にいる浅水とヒノエも、彼が無事に本宮の敷地内に入れたことを喜んだ。


「後の問題は、いつ別当が望美たちの前に姿を見せるか、かな?」
「それを言うなら、別当補佐もじゃないのか?」


ふふん、と楽しそうに言えば、逆に言い返される。


「決定権は頭領にあるからね。補佐はお呼びじゃないよ」
「……ふぅん」


つまらなそうに返された声に、何かあると思ったときだった。


「なら、熊野の神子姫は姿を現さないのかい?」


その言葉は、浅水の心を揺さぶるに充分たるものだった。










無事に本宮の結界を通ることができました
2007/3/30



 
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