重なりあう時間 | ナノ
熊野編 弐拾伍





伍拾伍話
 減らず口はお互い様!






将臣の姿を見送れば、八葉は再び一人欠けた状態になった。
これで、熊野へついたときとほぼ同じ。
違うのは、熊野へ来たときにはなかった、浅水の姿があるということ。


「それにしても、将臣って嵐みたいだね」


思わず呟いた浅水に、彼女を昔から知るヒノエと敦盛は苦笑いを隠し得なかった。





川に潜んでいた怨霊を封印し、再び本宮を目指していたときだった。
後少しで本宮へ着くというときに、将臣が同行できるのはここまでだと言うのだ。
望美たちには既に告げてあったらしいが、一人遅れて合流した浅水だけが、その事実を知らなかった。


「初耳なんですけど?」


思わず将臣を見上げて言えば、少し驚いた顔をしてみせながらも、あぁ、と笑顔を返してきた。


「そういや、お前いなかったんだよな。まぁ、そういうことだ」
「そういうことって、どういうことよ」
「細かいことは気にすんなって」


バシバシと浅水の背を叩きながら言われれば、仕方ないと諦めるしかない。
将臣とて都合というものがあるのだ。
いつまでも、望美たちと一緒にいるわけにもいかないのだろう。
ましてや、還内府その人では。


「どうせまた会えるだろうけど、一応、気をつけて」
「ああ、お前もな。しっかし一応ってのはないんじゃないか?」
「ふふ、言ってもいいの?」
「あ〜……俺が悪かったよ」


それで会話は終了なのか、お互いに握手を交わす。
そんな光景を見ていた望美は、側にいた譲の着物の袖をくいくいと引っ張った。


「先輩?どうかしたんですか?」
「将臣くんと翅羽さんの話を聞いてると、浅水ちゃんを思い出さない?」


望美に言われ、少し思い出してみるが、確かにその通りかもしれない。
ポンポンと、言葉のキャッチボールをしているようだ。


「そうですね。二人もあんな感じでしたし。でも、あの二人だとヒノエと弁慶さんの会話みたいじゃないですか?」
「あ、いえてるかも!」


盛り上がる二人を、将臣は安心したように見ていた。
見守るようなそれは、兄としての目。


「あの二人なら大丈夫だよ」
「そう、だな。んじゃ、俺もそろそろ行くわ。またな」


片手を上げて、後ろを振り返らずに前へと進んでいく。
遠ざかっていくその姿を見送りながら、浅水はまた近いうちに会えると思った。

八葉は神子の元へ集う。

だとしたら、少なくとも一度くらいは会えるだろう。





将臣の姿が見えなくなれば、次は自分たちも先を行かねばならない。
幸い、目的の本宮は目と鼻の先だ。
そこまで考えて、そういえばと思い出す。


「……ねぇ、ヒノエ」
「浅水?どうかしたのか」


呼ばれ思わず聞き返す。
何かを考えている様子に、思わず顔を覗き込む。


「敦盛って本宮の結界通れるかな?」
「……あ」


浅水の言葉に、ゆっくりと瞬きしてから、今更のように声を上げる。
次いで、二人は思わず顔を見合わせると、揃って敦盛を見つめた。










今回は現代組をメインにしてみました
2007/3/28



 
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