重なりあう時間 | ナノ
熊野編 弐拾肆





伍拾肆話
 忌々しいくらい眩しい貴方






女房が怨霊へと姿を変えれば、望美たちは一斉に身構えた。
ヒノエと弁慶も浅水を庇うように前に出る。


「浅水の言った通りだった、ってわけだ」
「そして怨霊は水属性。僕にはちょっとだけ有利ですね」


フン、と鼻を鳴らして嫌そうに顔をしかめるヒノエに、フフッ、と自慢気に笑んでみせる。
それを聞いてから望美を見て、少し考えてから言葉を紡ぐ。


「なら、弁慶は望美たちと合流だね。その方が早く終わりそうだし」


視線は望美と怨霊をしっかり捕らえている。
苦戦をしているわけではなさそうだが、少しでも戦闘が楽になるにこしたことはない。
浅水の言葉を聞いてから望美たちを見て、仕方ないですね、と小さく呟く。


「ヒノエ」


前を見たまま名を呼べば、返事はなくとも視線を感じた。
本来なら、返事がないことに一言、言うのだが、そんなことをしている暇はなさそうだ。


「浅水さんを頼みます」
「アンタに言われるまでもないさ。浅水はオレが何に変えても守る」
「それを聞いて安心しました」


頭の外套を少し深めに被り直し、持っている長刀を握り直す。
ス、と細められた瞳は軍師であるときと同様か、それよりも鋭い。
その場からゆっくりと離れれば、次第に速さを上げていく。
怨霊が望美を襲いかければ、長刀を利用してそれを防ぐ。
一瞬、怨霊の動きが止まったのを見計らい、次々と攻撃の手が加えられる。


「荒法師時代の弁慶って、あんな感じだったのかな」
「さぁね。でも、オレはたまにアレが本性じゃないかと思うよ」


戦闘に参加せず安全な場所にいれば、必然的にみんなの戦う様を見ているしかできない。
それが歯痒くて仕方ない。
ギリ、と唇を噛み締めれば、ぽんと肩に手が置かれる。


「浅水」


名を呼ばれ、ヒノエを仰ぎ見れば、そこにあるのは穏やかな笑顔。
だが、その裏には浅水と同じような葛藤があるのだろう。
肩に置かれていない方の手は、固く握り締められている。


「わかってる」


自分を納得させるように小さく呟く。
再び望美を見れば、怨霊との戦いも既に終盤だった。



「めぐれ、天の声

 響け、地の声

 かの者を、封ぜよ!」



暖かい光が怨霊を包む。
その光が収まると同時に、怨霊もその場から姿を消した。

望美の持つ神子としての力。
怨霊の浄化を初めて見た浅水は、ほぅ、と小さく感嘆の息をついた。

自分とは全く違う。

それもそうだ。
自分はあくまで星の一族であり、神子のサポート。
今でこそ、熊野の神子と言われているが、それは星の一族の先見の力があるから。


「本物の神子には、かなわないね」


自分には浄化の力があるわけでも、怨霊の声が聞こえるわけでもない。
ましてや、八葉でもない
あくまで一般人。
名乗りを上げてない自分は、この中の誰よりも望美から遠い位置にいる。


「翅羽さん、無事ですか?」


全てを終わらせて、浅水の元へと駆けてくる望美が、酷く眩しかった。










戦闘シーンも割愛って……orz
2007/3/26



 
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