重なりあう時間 | ナノ
熊野編 弐拾参





伍拾参話
 美しいと思うから守ることを誓う






ようやく目的の川へ到着すれば、そこは熊野川と同様に増水していた。
どこか渡れそうな場所はないかと探し始めれば、いつからいたのか一人の女房から制止が入った。
聞けば、この川には怨霊が潜んでいて、女房の夫と舎人たちを飲み込んでしまったのだという。


「何かおかしくない?」
「何がだい?」
「何がですか?」


女房と会話をしている将臣たちを眺めたまま呟けば、それに返事を返してきたのは天地朱雀の二人。
ちらりと二人を見遣って、ボソリと本音を漏らした。


「どうしてあんたたち二人が後列にいるのかも疑問なんだけど……」
「それはもちろん、何かあったとき浅水を守るために決まってるじゃん」
「僕たちは望美さんの八葉ですが、守る対象は彼女だけじゃない。あなただって大切な人なんですよ?」


小さくつぶやいたはずのそれにまで言葉を返され、言った自分が馬鹿だったと反省する。
確かに、身を守るすべを持たなかった頃の自分なら、彼らの保護対象に入っていてもおかしくはないだろう。
だが、熊野に帰ってきてから、ただ遊んでいたわけじゃない。
身を守るだけでなく、戦う術を学んだ。
だが、実戦経験がない以上、どこまで敵うかはわからないが。


「それよりも、どうして女房は怨霊が潜む川にわざわざ残ってるんだろうね」
「そう言われれば、確かに」
「こんな場所に一人居るより、どこかで忠告したり助けを求めるほうが早いな」


至極当然なことなのに、それをしないのは一体なぜか。
そして、それ以外にも浅水には気にかかることがあった。


「あの女房、本当に人間?」
「オイオイ、まさかそこまで疑うことはないんじゃないの?」


顎に手を当てて考え込んだ浅水に、ヒノエが肩をすくめて見せた。


「何か、思うところでもあるんですか?」


そっと、囁くように問いかければゆっくりと女房へと視線が送られる。


「確かに、怨霊の気配は感じる。でも、潜んでいるっていうよりはむしろ……」
「あの女房が怨霊じゃないか、と。あなたはそう思うんですね?」


残りの言葉を引き継げば、小さく頷く。
だが、ヒノエと弁慶には女房が怨霊だとは到底思えなかった。
どこからどう見ても人間そのもの。
だが、実際にそうだと決まったわけではない。


「様子は見たほうがいいと思うけどね」


考えるのは諦めたのか、小さく溜息をつきながら女房を見つめる。
そんな浅水の両脇に二人は立ち、警戒したように女房や川に意識を配る。


「そこまでする必要、ある?」
「念には念をってね。何があってもお前だけはオレが守るよ」
「水属性に火属性のヒノエでは役立たずですよ。浅水さんは僕が責任を持って守ります」
「責任って何だよ。アンタは望美を守ってればいいだろ」


あぁ、また始まった。
この際二人を止めるのも面倒だから、しばらくこのまま放っておこうか。
そう思ったとき。


「気をつけて!その人、怨霊だよ!」


聞こえてきた望美の声にはっとする。
彼女は今、怨霊だと言わなかったか?
周囲を見回しても、それらしい姿はない。

となると、考えられるのはただ一つ。


「ええい、あな憎しや白龍の神子め!!」


途端、女房の口調が変わり、その姿を人外のものへと変えていった。
怨霊相手にみんなが身構える中、浅水は身に着けていた小太刀に手を伸ばすかどうか、躊躇っていた。










あれ?戦闘まで入れなかった(爆)
2007/3/24



 
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