重なりあう時間 | ナノ
熊野編 弐拾弐





伍壱弐話
 胡散臭い愛想笑いにはもううんざり






愛想のよさそうな笑みを浮かべながらも、浅水からはさっさと先に進めさせてくれ、という気配がひしひしと伝わってくる。
それを知ってか知らずか、後白河院は望美と話していたときのように浅水にも話しかけてくる。


「いやはや、龍神の舞姫が女傑なのかと思っておったが、そなたもいたとなるとどちらがそうかわからんの」
「さぁ、私にはわかりかねますね」
「そなたも相変わらずよの。例の話も頷いてはくれぬのだろう?」


例の話、と言われて理解したのはヒノエと弁慶の二人だけ。
その他の面々は何のことかわからずに首を傾げている。
いい加減にしてほしいのはこっちのほうだ。


「何度も申しているとおり、私は前別当と熊野に恩がある身。ですから……」
「みなまで言わずともよい。そなたの答えはわかっておる」


だったら言うな、とはこの場にいる何人が思ったことか。
一向に先へ進むことができずにいる現状に、そろそろ浅水の忍耐も限界に来ていた。
何が悲しくてこんな狸の話し相手にならねばならないのか。
こうなれば、後白河院を突き飛ばしてでも先へ進んでやる。


「後白河院」
「悪いけど、先へ進ませてもらってかまわねぇか?とっとと怪異の原因を突き止めたいんでね」


浅水が口を開いた途端、小さく肩を叩かれた。
思わずそちらを振り返れば、将臣がさえぎるように後白河院に申し出る。
それにほっと安堵したのは、浅水の性格を知る人たち。
京で九郎とのやりとりを見ていた望美たちでさえ、浅水がどういう性格なのかは薄々感づいているようだ。


「そうだったの。すまんすまん。ささ、はよう行くがよい」


今度こそ道を譲られ、浅水たちは先へ進むことができた。
しばらく歩き、後白河院から完全に離れるとおのおの大きく溜息をついた。


「あ〜、疲れた」
「何言ってんだよ。こっちは冷や汗もんだったんだぜ?」
「全くだ。将臣が間に入ってくれなかったらどうなってたことやら。後白河院に対するお前の忍耐は相変わらずだね」


次々と言われる非難に、ぐっと浅水は言葉に詰まった。
全くその通りである。
初めて会った時から、浅水は後白河院が苦手だったのだ。


「……ナニモイイカエセマセン」


ぶすっと棒読みで返せば、ぽんと頭に将臣の手が乗せられる。
思わず見上げれば、仕方ないなと微笑む彼の顔が見える。


「翅羽さん!翅羽さんって別当と知り合いなのっ?!どんな人?それと、例の話って何っ?」


がしっと後ろからは望美がしがみついてくる。
きらきらと目を輝かせる様子は、さながら何かを期待している犬のように思える。


「あ〜……前別当はね。私の恩人で保護者代わり。現別当は……」


言ってチラリと視界の隅にヒノエを捉える。
一瞬目が合ったが、普段と変わりないように見える。
自分がここで現別当はヒノエだとバラしたらどうするつもりなのか。
まぁ、そんなことはするつもりもないし、ヒノエもしないと信じているのだろう。


「現別当は?」
「とらえどころがない、かな?」
「それじゃよくわかんないです」


一気にむくれる望美に、今度は浅水が頭をなでてやる。
彼女の機嫌を直すために、浅水は本宮へ行ったら後白河院が言った、例の話を教える約束をした。










白龍と望美の会話はスルー(爆)
2007/3/22



 
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