重なりあう時間 | ナノ
熊野編 弐拾壱
伍拾壱話
安堵しながら動揺するようやく貴族の元から離れられたと思ったら、次に待ちかまえていたのは、後白河院その人であった。
同行していた舎人が声を荒らげれば、何があったのかと後白河院が現れる。
要は、そういうことである。
「神泉苑の儀式以来かの、龍神の舞姫」
「はい。法皇様、お久し振りです」
「しかし、このようなところでいかがいたした」
望美の姿を見るなり、好々爺顔をし始めた後白河院に、浅水は陰で舌を出した。
相変わらず女と見ればすぐに手を出す。
ある意味、ヒノエと同種なのではないだろうか。
「俺たちも本宮大社へ向かう途中でね」
望美を庇うように、将臣が姫後白河院の前に出た。
「そなたが一緒であったか」
なるほど、としきりに頷く後白河院の姿を見て、将臣のことをしっているのだと悟る。
そういえば神泉苑では九郎とも会っているのだ。
となると、二人の立場を知っている。
「私からも、お願い申しあげます」
「九郎まで一緒か」
将臣に続いて前に出た九郎に、思わず浅水は顔を覆った。
いや、頭の固い九郎のことだ。
心のどこかでは、こうなることを知っていたのかもしれない。
だが、ここで後白河院がうっかり口でも滑らせたら、とんでもないことになる。
将臣のときと同様に頷く後白河院に、二人は思わず顔を見合わせた。
全く話が見えない。
「私たちがいかがしましたか?」
九郎がそう問い掛ければ、答えようと口が開く。
それを見計らったように、更にその間にヒノエが割って入った。
「何にしても、本宮へ行けないんじゃ後白河院もお困りだろう」
「そなたまで?!」
思ってもみない人物の登場に、今度こそ後白河院の目が驚きに変わる。
それはそうだろう。
この場にいるはずのない熊野別当、本人が目の前にいるのだから。
「いやはや、このような組み合わせ、余でもなかなか見られぬ。そなた、大したものだの」
「はぁ……」
望美は後白河院から賞賛の言葉をもらったが、何に対しての賞賛かわからない。
それはそうだろう。
九郎ならまだしも、二人の立場を知らないというのなら、尚更だ。
「そらたならば、怪異を鎮めることができるかもしれぬな。さぁ、余のためにも川の怪異を鎮めて魅せてくれ」
快く先を譲ってきれた後白河院だったが、その際に隠れるようにしていた浅水を見つけた。
「まさかおぬしも一緒だったとはの」
その一言に、ギクリと体を強ばらせた浅水だったが、大きく溜息をつけば諦めたように後白河院を見る。
「お久し振りです、後白河院」
浅水は大人しくヒノエの隣に行き、挨拶と同時に頭を下げた。
色んな意味でダメダメです(爆)
2007/3/21