重なりあう時間 | ナノ
熊野編 弐拾





伍拾話
 諦めは悪い方だけど






強行軍で熊野路まで戻ってきた一行は、とある場所でうんざりとした顔となった。
そう、そこには先日先を塞いでいた貴族が未だにいたからに他ならなかった。


「また来おったな!」


先方もこちらのことを覚えていたようで、姿を見るなり声を上げた。
まぁ、総勢十数名の大所帯だ。
覚えていない方がおかしいか。
だが、今回はここで足止めされるわけにはいかない。
怪異の原因はこの先にあるはずなのだから。


「とりあえず、私は傍観させてもらうわ。何とかしてあの貴族を言いくるめてね──弁慶?」
「オレも翅羽と同意見だね。ここはアンタの腕の見せ所だろ」


貴族と言い合いを始めた将臣を眺めつつ、浅水とヒノエは少し離れた場所へと移動することにした。
その際、二人して弁慶の両脇を通り過ぎながら彼の肩を叩く。
途端、弁慶は怪訝そうに眉を顰めた。
ヒノエに対しては、睨んでさえいた。


「どうして僕が……」
「だって、こういうことは軍師様のお得意分野でしょ。上手く丸めこんでよね」


私は部外者だからね、と呟きながらひらひらと手を振る。
既に弁慶から逃げるように離れていたヒノエの隣へ行き、側にある木に凭れる。
ヒノエがいた場所は、みんなの姿がよく見えた。


「別にここは良いんだけど、問題はこの先だよね」
「先?院に会うことが心配かい?」


浅水の呟きを聞き取ったヒノエが首を傾げた。
熊野の神子としての姿を知っている後白河院だ。当然、今の姿で誤魔化されてくれるはずはない。
それを口に出されることを懸念しているのだろうか?


「そう、だね。心配って言えば心配だよ。何せ、この集団だし」


そう言って、浅水は望美たちの姿を見た。
正確には、望美と九郎と将臣の三人を。
望美と九郎は多分知らない。

将臣が還内府だということを。

そういう浅水ですら、那智の滝でそのことを初めて知ったのだ。
今まで同行していない将臣のことを、詳しく知るものはいないのかもしれない。
そこまで思ってから、あぁ、と思い直す。
敦盛は同じ平家だから知っているか。


「あぁ、そうかもしれないね。九郎あたりがボロ出しそうだし」
「相変わらず固いからね、アレも。私が京にいたときと変わらない」
「そう簡単に人が変わるもんか。九郎なら尚更ね」


納得したように頷いたヒノエが出した名前に、浅水も同意した。
多分、今いる中でおかしな事を口走るとしたら白龍と九郎だろう。
白龍は少々きつく言えば理解してくれるが、九郎は言ってもわかるかどうか。
そこまで思ったときに、弁慶が動くのが視界に入った。


「さて、弁慶のお手並み拝見といこうか」


腕を組んで悠然と構えればヒノエも同じようにした。
弁慶が何か話し、それに景時が合わせている。
どうやら、景時の陰陽術をだしにしたようだ。
貴族が道の端に移動したのを見て、この先に行けるのだと安堵した。


「さすが弁慶」
「貴族がアイツに勝とうと思うのが間違いなんだよ」


本人の目の前では決して言わないであろう言葉に、思わず笑みを浮かべた。
何だかんだと言って、弁慶のことも一目おいているのだ。


「二人とも、先を急ぎましょう」
「了解」


その場から振り返って自分たちを呼ぶ弁慶に、浅水は小さく返事を返した。










手抜き街道まっしぐら〜
2007/3/18



 
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -