重なりあう時間 | ナノ
熊野編 拾玖





肆拾玖話
 頭上には雲天がのしかかる






翌日。
ようやく熊野川へと出発した一行は、実際に現地へ行ってその凄さを目の当たりにすることになった。


「本当に、勝浦で聞いた通りね」


小さな溜息と共に呟いた朔に、誰も返す言葉が見付からなかった。
普段の熊野川を知っている浅水とヒノエも、この状況には開いた口がふさがらなかった。
ここまで増水している熊野川など、見たことがない。


「本宮大社に行くにはここを通らないといけないのに……」
「困りましたね。それにしても、周りは良い天気なのに、ここだけこんな荒れ模様だなんて変じゃないですか?」


譲の言葉を聞いて、浅水は思わず空を見上げた。
言われてみれば、確かに熊野川周辺以外は雲一つない青空だ。
ということは、人の物ではない何かの力が働いているのだろうか?


「神子に害意をもったものがいるよ」


白龍が言った次の瞬間。
何か爆発のような音がしたと思ったと同時に、熊野川の水が更に増した。
幸いにも、真っ先に気づいたリズヴァーンが注意を促したおかげで、誰一人怪我もなく避難することが出来た。


「一体どうなってんだ?」
「白龍が感じた気配と、何か関係があるのだろうか……」
「でもさ、この辺りには怨霊とかいなさそうじゃない?」


誰しもが熊野川について悩み始めた頃、それとは違う理由で悩んでいた望美が声を上げた。


「そういえば熊野に来てから、怨霊って見てないよね?」


その言葉に、思わず呆気に取られる。
目的は熊野川の怪異の原因を突き止めるはずだったのに、望美が言ったことは全くの的外れだ。
思わず浅水は手で顔を覆った。


「言われてみれば、そうだな」
「そうね。怨霊の姿を見ていないわ」
「ヒノエ、熊野には怨霊は出ないんですか?」


次々に同意する姿に、思わず弁慶がヒノエに問うた。
浅水も熊野の事を思い起こしてみるが、怨霊が出たという話はそこかしこで聞いた。
確かに、怨霊が出ないというのはおかしい。


「いや、結界で守られている本宮ならまだしも、それ以外じゃ怨霊は出るって話だぜ」
「そうですか……。なら、どうして怨霊は一度も僕達の前に現れないんでしょうね?」


現れないにこしたことはありませんが、と呟いたのは弁慶の本音なのだろう。
だが、弁慶の疑問も頷ける。


「翅羽がいるからだね」
「翅羽さんが?」


ふいに告げられた言葉に、周囲の視線が浅水に集まる。
だが、その言葉の意味がわからない。


「白龍、それはどういうこと?」
「翅羽は神々に愛されているから。だから、その神気に当てられて怨霊も出てこれないんだよ」


尋ねれば流れるように答えが返ってきたが、神気に当てられただけで怨霊が現れない物なのだろうか?
だが、もし白龍の言葉が本当だったら、京から熊野へ帰る道程で一度も怨霊に会わなかった理由として頷ける。


「神気、ね。あながち、白龍の言葉も間違っちゃいないかもな」
「ヒノエ、それってどういうこと?」
「言葉通りだよ」


満足そうに頷いたヒノエに問いかけるが、飄々としていてつかみ所がない。
更に浅水が問い詰めようとすると、それを遮るように弁慶が口を開いた。


「まぁ、それよりも先に目の前の問題ですね。もっと上流……熊野路の先に原因があるかもしませんね」
「とりあえず、いったん熊野路に引き返すしか道はなさそうだな」
「そうですね。何が起きているのか確かめないと」


こうして、一行は熊野川から再び熊野路まで引き返すこととなった。










手抜きでごめんなさい……orz
2007/3/16



 
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