重なりあう時間 | ナノ
熊野捏造編 参





参話
 ほころぶ口元を隠しきれない






目に入ってきた鮮やかな朱に、思わず浅水は目を奪われた。
よく見てみれば、すらりと伸びた手足に、整った顔立ちをしている。
年は今の自分と同じくらいだろうか?
まるで人形のような美少年、と言っても過言ではないだろう。


「姫君?」


問いにいつまでも答えない浅水を訝しんだのか、少年がことりと首を傾げる。
その様子が年相応の少年のもので、人形ではないとわかると思わず笑みが浮かぶ。
浅水の様子を見て、少年の表情が更に歪む。


「あぁ、ごめん。君があまりにも綺麗だから、人形かと思って」


笑みを浮かべたまま自分が笑った理由を答えれば、彼はきょとんとした表情を浮かべまさか、と呟いた。


「オレよりも、姫君のほうがよっぽど人形のように見えるけどね」


見た目と似合わぬ大人らしい口調に、随分とマセてるなぁ、と内心ごちる。
今の自分の外見年齢は湛快と弁慶曰わく、十前後らしい。
昔の自分を思い出すと、これほどまでに髪が長かった――毛先は既に腰を越えている――のは小学校に上がった頃まで。
となると、大体七歳くらいだろうか。
だが、自分は人形のように可愛かったわけでも、彼のように綺麗だったわけでもない。
強いて言うなら十人並み。


「そう?私は君に言われるほどそうだとは思わないんだけど」
「そんなことないけど?何だ、姫君はその神気に気付いていない?」
「神気?」


聞き慣れない言葉に思わずおうむ返しになる。
少年はどこからそんなものが出ているというのか。
自分には神気の「し」の字すら感じられないというのに。
首をひねって考えていると、少年が楽しそうにクスクスと笑い始める。
これでは先程と立場が全く逆だ。


「あのね、姫君。姫君からは……」
「湛増、こんなところで何をしているんですか」
「ゲッ……」
「あ、弁慶さん」


少年が理由を話しかけていたところに、ちょうど弁慶が現れた。
弁慶を見た少年の顔が嫌そうにしかめられる。
もしかして弁慶が苦手なのだろうか?


「今は勉強の時間じゃありませんでしたっけ?」
「あんなもん、とっくに終わった」
「なら僕のところに持ってくればいいのに」
「嫌だね。アンタんとこ行くと倍になって返ってくるじゃん」
「全く、ああ言えばこう言う」


まるで言葉のキャッチボール。
面白いくらいの言葉の応酬に、ついつい小さく吹き出してしまう。


「ホラ、アンタのせいで姫君に笑われただろ。姫君、今日は邪魔が入ったけど、また今度ゆっくり話そうぜ」


小さく頬を膨らませて抗議すると、少年は浅水に笑いかけてから姿を消した。
勿論、本当に姿を消した訳ではなく、木に登ったのだと後から弁慶に教えられた。


「湛増、って彼のこと?」
「えぇ。兄の、湛快の息子なんですよ」


彼のことを尋ねれば、そう答えが返ってきた。



熊野別当・藤原湛増。



真っ先に出たのはその単語。
あぁ、ならここは熊野なんだ、と今自分が立つ地を思う。
確かに、どこか神聖な気がしないでもない。
それの父ということは、湛快が現別当になるのだろう。
自分が世話になったこの場所が、これだけ立派なのもわかった気がした。
この地に辿り着いたのも、何か理由があるのかもしれない。
そうとわかれば、やらなければいけないことがある。





「弁慶さん、湛快さんと面会できます?」





覚悟は、決まった。










叔父と甥の会話は書いてて楽しいけど、仔ヒノエの口調がわからない。
2006/12/08



 
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -