重なりあう時間 | ナノ
熊野編 拾伍
肆拾伍話
他意はない。期待と願望はあったかも結局、日置川峡でいろいろとあったが、一行は再び本宮大社を目指して出発した。
その道程は新熊野権現を出たときには考えられない程和やかだった。
浅水とヒノエの仲が戻るだけで、雰囲気は天と地ほどの差があったのだ。
そんな感じで進んでいたが、勝浦まで来た浅水たちは、足止めをされることとなった。
理由は簡単。
熊野川が氾濫して、本宮への道が閉ざされてしまったからである。
「いったいここで何日待てばいいんだ!」
ヒノエが案内した宿で、落ち着きがなさそうに部屋の中をうろうろしていた九郎が吼えた。
二、三日で水は引くだろう、と予想していただけに、ここまで長くなるとは思ってもいなかったのが普通だ。
よく見れば、口に出して言わないだけで、九郎と同じ思いの者もちらほらといるようだ。
「ん〜、それにしても、ちょっと変だよね?」
「うん。熊野を巡る水の流れがおかしいね。これじゃ、待てば引くとは限らないよ」
望美の言葉に白龍が同意した。
神である白龍がそう言うのだ。
そうなると、いつまでたっても勝浦から本宮へは行けないことになる。
浅水やヒノエだけなら、話は別になるだろうが。
長年熊野にいる二人は、道なき道を通ってでも本宮へ行くことは可能だろう。
だが、それは望美や朔のような女性には酷という物だ。
それを知っているから、二人は敢えて何も言わないし、教えようともしない。
景時が町で情報を集めようと言うので、みんなは勝浦の町へと繰り出した。
勝浦の町でも結局詳しいことは解らなかった。
これからどうしたもんか、と思っていると、今度は将臣から現地へ行ってみようと提案が出た。
「でも、どうやって行くの?」
「そうですね。熊野川が氾濫していて船は無理でしょう」
「……熊野灘沿岸を北上して西へ路を辿れば、熊野川の中程に出られる」
現地への行き方を相談すれば、それに敦盛が助言をした。
それを聞いて、なるほどと喜んだのは望美。
譲もそれだったらと納得したようだった。
「敦盛さんは熊野に詳しいんですね」
「あ、あぁ……私は、熊野で育ったから」
そう言って、浅水とヒノエを見た敦盛に、以前弁慶が三人は幼馴染みのような物だと言っていたことを思いだした。
自分と将臣、譲も三人と同じように幼馴染みだったから、似たような感じだったのかなと過去を思った。
だが、自分には更にもう一人幼馴染みがいたのだ。
女一人と男二人、女二人と男二人ではかなり違うかもしれない。
でも、どちらかといえば女一人と男三人だったかなと、小さく笑んだ。
「熊野は京とも繋がりが強いから。私たちのように、京から訪れる人も多いみたいね」
「へぇ、あんたたち京からきたのかい?」
ふいに入ってきた第三者の声に首を巡らせれば、そこには行商人であろう中年女性の姿。
望美たちが白龍の神子の噂話に話を咲かせていると、会話の中に熊野の頭領という言葉が聞こえた。
それに思わず浅水とヒノエの視線が鋭くなる。
もしこの行商人が熊野の頭領の顔を知っていたら、芋蔓方式でヒノエがその熊野の頭領だとバレてしまう。
せっかく立場を隠しているのに、ここで正体がばれてしまったら元も子もない。
何を言うか、しっかりと聞いておかなくては。
「でも、熊野の頭領も許嫁の姫様がいるって言うのに、白龍の神子って姫君に一目惚れだなんてねぇ?」
行商人の口から出た言葉に、浅水は思わず固まった。
いつから許嫁に……(笑)
2007/3/8